北村正裕BLOG

【北村正裕のナンセンスダイアリー】童話作家&シンガーソングライター、北村正裕のブログです。 執筆情報用ホームページ(童話作家・北村正裕のナンセンスの部屋) http://masahirokitamura.my.coocan.jp/ と、音楽情報用HP(北村正裕アート空間) http://masahirokitamura.art.coocan.jp/ もよろしく。 X(旧ツイッター)アカウントは「@masahirokitamra」です。

アニメ映画『かがみの孤城』公開、特典カード配布も

アニメ映画『かがみの孤城』(辻村深月原作、原恵一監督、丸尾みほ脚本)、本日、12月23日公開。初日の上映見てきました。
600ページを超える大作小説を約2時間の映画にまとめるのですから、原作の要素をかなり圧縮しないといけないのは当然ですが、うまく2時間の映画にまとめてあるという印象でした。
例えば、スバルの家庭の事情は、映画ではほとんど描かれておらず、原作小説でスバルの台詞にあったスバルの兄の存在などは、映画には一切出てきませんでしたが、このスバルの兄をめぐる原作での描写は、4月24日の記事
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52488812.html
に書いた通り、そもそも必ずしも成功しているとは言えないような部分だと思うので、こういうところの削除は、むしろ、鑑賞しやすさにつながっているように思いました。
城のビジュアルが登場したとき、最初に気になったのは、大時計への階段がないことでした。
この階段は、もともと雑誌「asta*」連載版にはなく、改作された17年単行本で始めて登場したものであるということは、来月刊行予定の『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』(北村正裕著、彩流社、23年1月刊行予定)の第一章に書いてある通り(すでに校正も終了しています)ですが、その階段が、映画の城にはないので、クライマックスでこころが大時計を目指すシーンをどう描くのだろうと思ってみていたのですが、そこのところは、今回のアニメ映画では、ひとつの見せ場になっていたように思います。また、×マークの原作にはなかった役割にも注目です。
そのほか、今回、城に、「トロイメライ」(シューマン作曲)が流れる大きなオルゴールがありますが、ラスト近くで、幼少のリオンがミオのドールハウスの中に小さなオルゴールをいれるシーンがあり、それが城にあるオルゴールの元になっていることが示唆されると同時に、リオンが城の正体に気づく要因のひとつになっていたことも示されていて、ここのところは、映画独自の要素になっていました(幼いリオンの声は矢島晶子さん)。
一方、原作にあったミオとアキの特別な関係が映画には出てこないのが少し残念にも思いましたが、やはり、2時間の映画にまとめるとなると何かは削除せざるをえませんね。
原作小説(17年単行本)では、ラストの前にリオンの転校シーンがありますが、今回の映画では、17年版原作小説のラストとリオンの転校シーンの順番が逆になっていて、17年版小説の「奇跡のラスト」がラストではなく、ひとつ前に繰り上がっていますが、これは、音楽の使い方や、エンドロールとのつながりなどと関係があるかもしれません。「奇跡のラスト」に値するのは、17年版小説のラストであって、リオンの転校は、それだけでは「奇跡」の名には値しないでしょうが、エンドロールとのつながりを考えると、今回のような順番が選択された理由もわからないわけではありません。映画では、ラストのひとつ前になってしまいましたが、「心の教室」のシーンこそが「奇跡のラスト」だと思います。

声優陣では、テレビアニメ「忍たま乱太郎」、「名探偵コナン」で主役を務める高山みなみさん演じるマサムネは、期待通り、落ち着いたマサムネでした。そして、期待以上だったのが、主役、安西こころ役の當真あみさん。大きな声や派手な抑揚などが使えない難しい役だと思いますが、しっかりと主役の存在感を出せていたように感じました。

原作小説のファンにとっては是非見たい映画でしたが、原作未読の方にとっても魅力的な映画になっている思います。

原作小説について論じる作品論『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』(北村正裕著、彩流社、23年1月刊行予定)は、映画鑑賞後かまたは原作小説読了後にお読みください。

〔北村正裕HP内の「かがみの孤城」関連リンクページ〕
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/kagaminokojo-l.htm

〔彩流社の『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』情報ページ〕
https://www.sairyusha.co.jp/book/b10025211.html

〔『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』出版情報ブログ記事〕
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52493986.html

〔北村正裕ツイッター〕
https://twitter.com/masahirokitamra

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【追記】入場者プレゼントとして配布されている封筒にはいっているのは、登場人物たちの「その後」などを描くイラストが描かれた2枚のポストカードのセット。
封筒には「必ず〈鑑賞後〉に開封すること」と「中身をSNSに投稿しないこと」という2つの「お願い」が書かれていますが、映画の公式ツイッターの情報
https://twitter.com/kagami_eiga/status/1605503343211814912
によるとこの特典のカードのセットは3種類あるようです(カードは合計6種類)。
観劇回数を制限しなけい場合の3種類が揃うまでの観劇回数の平均値(期待値)を計算してみたら5.5回。そして、5回の観劇で3種類が揃う確率は50/81(61.7%)。計算、合ってるかな?

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〔映画特典情報ツイート〕
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1606292233291849730

【23. 2. 1追記】
映画入場特典イラストカード、1月20日に配布された第2弾と1月27日に配布された第3弾のカードに記された「孤城」の文字を鏡に写すと、第2弾カードでは「友達」、第3弾では「宝物」という文字に!
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1620769149965443073

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1月20日から、第1弾カードの画像が「スペシャル映像」として、本編後に上映されていて、そのカードのうちの1枚、アキとミオの特別な関係を示す絵も上映されています。BGMは、シューマン作曲「トロイメライ」。
(23. 2. 1追記)

【23. 2.17追記】
本日、映画興行収入10億円突破の発表がありました。
https://twitter.com/kagami_eiga/status/1626451374119522305

23日からの入場者プレゼント(入場特典)第4弾配布が、すでに13日に発表されています。
https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/news/230213special/
(23. 2.17追記)

【23. 2.23追記】
2月23日より公開3カ月目に突入、入場特典プレゼント第4弾のイラストカード配布開始。両面イラストのうち片面のQRコードを読み取ると第1弾カード〈その後の風景〉の画像が保存できる仕組みに!

情報ツイート
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1628654213076242432
(23. 2.23追記)

【23. 3.25追記】
3月30日に丸の内ピカデリーでフィナーレイベント(閉城記念舞台挨拶)開催との発表。チケット発売中。
https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/news/230330event/
(23. 3.25追記)

【23. 4. 2追記】
3月30日、丸の内ピカデリーで閉城の日フィナーレイベントが行われ、主役声優の當真あみさんと原恵一監督の舞台挨拶がありました。

関連ツイート
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1641429285994102784

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一部の映画館では、まだ、上映続いていますが、フィナーレイベントの日で上映終了となった映画館が多いようです。
(23. 4. 2追記)

【23. 4. 7追記】
昨日(4月6日)、映画のブルーレイディスクとDVDが6月28日に発売されることが発表されました。また、4月28日からU-NEXTで先行配信されることも発表されました。

BD、DVD発売情報
https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/bd-dvd/

U-NEXT先行配信情報
https://www.unext.co.jp/ja/press-room/kagaminokojo-announce-2023-04-06

ツイート
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1643788292239024129

(23. 4. 7追記)

『かがみの孤城』アニメ映画化宣伝パンフ入手/あらすじ・声優キャスト情報等

アニメ映画『かがみの孤城』(辻村深月作、原恵一監督)の公開予定日は22年12月23日。

映画公式サイト
https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/

声優キャストのうち、なかなか発表されなかったオオカミさま役の声優が「芦田愛菜」であることが発表され、その名も記載された宣伝パンフレット(チラシ)を映画館でもらってきました。

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すでに発表されているように、声優陣には、テレビアニメ『忍たま乱太郎』、『名探偵コナン』で主役の声を担当している高山みなみさんなど、大物声優の名前もあります。宣伝パンフには役名が書かれていませんが、公式サイトでは、高山みなみさんはマサムネの声を担当するとのことです。
公式サイトと同じように、あらすじ、内容紹介として、
「学校での居場所をなくし部屋に閉じこもっていた中学生・こころ。ある日突然部屋の鏡が光り出し、吸い込まれるように中に入ると、そこにはおとぎ話に出てくるようなお城と見ず知らずの中学生6人が。さらに『オオカミさま』と呼ばれる狼のお面をかぶった女の子が現れ、『城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう』と告げる」
「全ての謎が明らかになるとき、想像を超える奇跡が待ち受ける―」
という紹介が掲載されています。
また、宣伝パンフ(チラシ)には、
「鏡の世界に招かれた7人。すべての謎が明かされたとき、想像を超える奇跡に涙があふれ出す—」
というキャッチコピーも、おもて面の最後行に載っています。

『かがみの孤城』の原作は、辻村深月さんの小説で、2017年に単行本が出版された後、22年にはポプラ文庫版、23年には児童向けのキミノベル版も出版されていますが、17年の単行本の物語は、2013~14年に雑誌「asta*」に連載され、結末までたどり着くことなく連載終了となった『かがみの孤城』の物語を改作したもので、17年版の感動的な結末は、当初の連載版執筆時には想定されていなかったものであり、連載版の内容は、後の17年版の結末とは矛盾さえするものでした。『かがみの孤城』は、その「asta*」連載版からの大改作の努力こそ高く評価されるべきものであると思いますが、それについては、来月、12月に彩流社から出版される予定の作品論『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』の第1章で詳しく解説しますので、小説を読み終えた方で興味お感じの方には、是非、お読みいただきたいと思います。
小説未読で映画を先にご覧になるという方の場合は、『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』をお読みになるのは、映画を見てからにしてください。ネタバレにご注意ください。

〔北村正裕HP内の「かがみの孤城」関連リンクページ〕
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/kagaminokojo-l.htm

〔彩流社の『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』情報ページ〕
https://www.sairyusha.co.jp/book/b10025211.html

〔『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』出版情報ブログ記事〕
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52493986.html

〔北村正裕ツイッター〕
https://twitter.com/masahirokitamra


『かがみの孤城』単行本、文庫、キミノベル版の違い

12月のアニメ映画公開も迫ってきた辻村深月さんの小説『かがみの孤城』。これから購入しようという人の中には、単行本にしようか、ポプラ文庫版にしようか、それとも児童向けシリーズのキミノベル版にしようかと迷っている人もいるかもしれませんね。そこで、そういう人達の参考にしていただくために、これら3つのバージョンの違いについて簡単に記しておきます。
本文そのものの違いはわずかで、単行本出版前の2013~2014年の雑誌「asta*」連載版から単行本(17年版)への大改作に比べれば、その後の文庫本出版時の修正はわずかです。
しかし、一応、単行本からの文庫化のさいの修正点を挙げておきますと、文庫版では、単行本の16ページの9行目の「それ以降、会話が途切れた」という一文が削除され、「はい」というこころの台詞の後、すぐに、「喜多嶋先生はキレイな人で」という地の文に続いていくようになっていて、キミノベル版もポプラ文庫版と同様です(ポプラ文庫版上巻22ページ、キミノベル版上巻22ページ)。
喜多嶋先生の秘密については、いわばトップシークレットで、小説未読の方には絶対に教えてはいけないことですから、ここには書けませんが、その重大な秘密は、2013年の「asta*」連載当初は、全く想定されていなかったことであり、それどころか、後の単行本で示された喜多嶋先生の秘密とは矛盾する内容でさえありました。そして、単行本でのこのあたりの記述は、喜多嶋先生がこころの味方なのかどうかも確定していなかったころの連載版の文章がそのまま使われていた部分ですが、ポプラ文庫版では、上記の一文が削除されたことで、いわば、連載版の痕跡が見えなくなっていると言ってもよいと思います。
連載版から単行本への『かがみの孤城』の大改作については、来月、彩流社から出版予定の『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』の第一章で詳しく紹介しますので、興味お感じの方には、小説をお読みになってからお読みいただければさいわいです。
キミノベル版は、ポプラ文庫版のテキストにルビをふり、村山竜大さんの絵がはいっています。そうなると、キミノベル版が一番お得というようにも思えますが、ポプラ文庫版には、キミノベル版よりも文字が大きいので、大きめの文字で読みやすいというところがポプラ文庫版の長所だと思います。

来月、12月23日には、アニメ映画が公開されるので、映画を先に見る人もいると思いますが、小説も未読で映画も未視聴という人は、小説を読み終えるか映画を見るまでは、ネタバレ情報に触れないようにご注意ください。

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〔北村正裕HP内の「かがみの孤城」関連リンクページ〕
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/kagaminokojo-l.htm

〔北村正裕ウェブサイト紹介ページ〕
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〔『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』についての彩流社の情報ページ〕
https://www.sairyusha.co.jp/book/b10025211.html



【22.12. 8追記】『かがみの孤城』文庫版に、アニメ映画仕様の新しいカバー(全面カバー帯)がついたようです。
丸善ジュンク堂のツイート
https://twitter.com/maruzeninfo/status/1594544889076883456
に情報が出ています。
(22.12. 8追記)

『かがみの孤城』作品論、彩流社からの出版決定

来月、12月に、彩流社から新しい本『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』(北村正裕著)が出版されることになりました。
辻村深月さんの小説『かがみの孤城』の雑誌連載版から単行本への大改作を検証し、新しいラストが生まれた背景を探り、アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』と『エヴァンゲリオン』シリーズとの比較などを通してその特徴を考える内容で、今年1月に『夢の中の第3村』のタイトルで電子出版したものを再構成、改題の上、加筆、修正を加えたものです。

第一章では、『かがみの孤城』17年版の衝撃のラストが、連載版からの大改作でどのように生まれたのかを検証する内容ですが、『かがみの孤城』ほど、ラストの衝撃の大きい小説は無いかもしれません。そして、本書は、その衝撃の読書体験の感動ををさらに深めるための本だとも言えるもので、したがって、まずは、ネタバレ情報に触れないうちに小説『かがみの孤城』を最後まで読み切ることが前提です。来月、12月23日には、アニメ映画が公開されるので、映画を先に見る人もいると思いますが、『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』は、小説『かがみの孤城』を読み終えた人と映画『かがみの孤城』を見た人のための本ですので、小説も未で映画も未視聴という人は、決して『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』を先に読んでしまうことがないよう、ご注意ください。くれぐれもネタバレにご注意ください。

『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』の目次は次の通りです。
序章 孤独な少年少女たちの居場所としての「かがみの孤城」
第1章 連載版から17年版への大改作
第2章 「かがみの孤城」が示した類型化への抵抗
第3章 「かがみの孤城」と「魔法少女まどか☆マギカ」
第4章 虚構の中の創造主―「エヴァンゲリオン」と円環の物語 

〔彩流社の情報ページ〕
https://www.sairyusha.co.jp/book/b10025211.html

〔北村正裕HP内の「かがみの孤城」関連リンクページ〕
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/kagaminokojo-l.htm

〔北村正裕ウェブサイト紹介ページ〕
https://masahirokitamura33.wixsite.com/masahirokitamura

〔北村正裕ツイッター〕
https://twitter.com/masahirokitamra


〔当ブログの「かがみの孤城」関連記事より〕

「読了までネタバレ回避を!」
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52490534.html

スバルの記憶「血が出なかった…」の違和感
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52488812.html

舞台「かがみの孤城」、舞台ならではの演出も
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52472208.html

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【22.12. 8追記】『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』(北村正裕著、彩流社)、刊行は、23年1月になりそうです。先月、彩流社が書店向けに作成したチラシでは「12月刊行}となっていましたが、その後の作業が遅れているようです。もう少しお待ちください。
(22.12. 8追記)

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誤解に基づく「白鳥の湖」衣装替え演出

バレエ史上最も有名なバージョンと言ってよいと思われるプティパ・イワノフ版「白鳥の湖」では、魔法で白鳥の姿にされてしまい夜の間だけ少女の姿に戻れるというオデットが、夜の湖畔で王子ジークフリートと出会う物語ですが、ブルメイステル版などには白鳥の模型が受け継がれているのに対して、模型の白鳥が登場しないバージョンの場合、ダンサーによって演じられる人間の姿に戻っている白鳥たちを、時に、白鳥の姿のままで踊っている姿だと誤解している人も多いのかもしれません。「白鳥たちの踊り」という曲のタイトルもさることながら、今日では定番となっている白鳥の姿をイメージした衣装も、その誤解の大きな原因になっているのでしょう。しかし、注意深く見ていれば、イワノフによって振付られた湖畔での王子とオデットとの出会いの場面、舞台左手から右手奥に向けて弓を構えた王子が、人間の姿に変身するオデットを見て驚き、弓を構えるの止めて左奥に退き、変わって、人間の姿に戻ったばかりのオデットが右手から登場するという演出になっていて、プティパ・イワノフ版の原典版では、湖面の白鳥の模型が省略されなければ、わかりやすいオデットの登場場面になるはずです。


Wileyの"Tchaikovsky's Ballets" という本に掲載されている1895年に出版されたプティパ・イワノフ版台本を出典とする英訳文を見ると、王子とオデットとの出会いの場面は、次のようになっています。
「ベンノが、王子の従者の中の何人かの友人たちとともに入って来る。白鳥たちに気づいて、彼らは、射ようとするが、白鳥たちは泳ぎ去る。ベンノは、群れを見つけた事を王子に知らせるために仲間達を使いに出して、ひとり、残る。白鳥たちは、美しい、若い少女たちの姿に変わり、ベンノを取り囲む。彼は、魔法の現象に驚き、彼女たちの魅力に無力になる。彼の仲間たちが、王子の先に立って戻ってくる。彼らが到着すると、白鳥たちは後退する。若者たちは、それを射ようとする。王子が入ってきて、やはり、狙いを定める。しかし、この時、廃墟が魔法の光に照らされ、オデットが現れ、慈悲を嘆願する」
この台本で示されている「狙いを定める」その先は、人間の少女たちではなく、まだ、人間の姿に戻っていない白鳥たちであり、その白鳥たちは、実際には、(現在でもブルメイステル版などに受け継がれている)模型で表現されて湖面を泳いでいたのだろうと思います。模型が省略されているバージョンでは、時に、王子の友人のベンノたちの弓が人間のダンサーに向けられてしまっているため、人間のダンサーが白鳥を演じているかのような誤解を与えかねない状況になっているし、おまけに、白鳥をイメージしたあの衣装ですが、ダンサーが演じているのは、あくまで人間の姿に戻っているときの娘たちであり、白鳥の呪いをかけられた娘たちが夜の間だけ人間の姿に戻れることになっているのは、王子と踊るためだと言ってもよいでしょう。
今日の白鳥のイメージのチュチュは、呪いの象徴であり、決して、白鳥の姿そのものを意味しているのではないわけですし、「白鳥たちの踊り」という曲のタイトルにしたって、「白鳥の呪いをかけられた娘たちの踊り」などというタイトルでは長すぎるからこのようになっていると考えるべきでしょう。また、上記の1895年版台本で、王子のオデットへの愛の誓いの後の場面には、「夜が明けかかっている。オデットは、最愛の人にいとまごいをして、友達と一緒に廃墟の中に消える。夜明けの光が明るくなる。湖面を、再び、白鳥の群れが泳いで行く。そして、その上を、大きなふくろうが、羽を重々しく揺り動かしながら、飛ぶ」と、書かれ、夜明けとともに白鳥の姿に戻らなければならずに王子と別れるオデットの運命が明記されています。

最近、日本で上演された舞台でも、例えば、昨年(2021年)10月~11月に新国立劇場で上演されたピーター・ライト版「白鳥の湖」の場合、プログラムの「あらすじ」のページには、王子とオデットとの出会いの場面について、次のように書かれています。
「湖岸に着いたジークフリート王子は、ベンノに白鳥を探しに行かせる。一人残った王子は、そこに魔術師ロットバルト男爵の邪悪な存在を感じとる。突然一羽の白鳥が舞い降りてくる。そして王子が驚き見つめるなか、美しい乙女に姿を変える。その若い娘こそオデット姫であった。オデットと彼女の仲間たちはロットバルトによって白鳥の姿に変えられ、夜の間だけは人間の姿に戻れるのだ」
また、王子とオデットたちとの踊りの後については、
「やがて夜明けが訪れ、オデットと仲間たちは白鳥の姿に戻り、湖へと帰っていく」
と、書かれていて、ダンサーによって演じられているのが人間の姿に戻っている夜の娘であることが明記されているのですが、それを、白鳥の姿のオデットたちだと誤解している人が多いのかもしれません。

10月30日に東京文化会館で見たヒューストン・バレエの昼の公演、ウェルチ版「白鳥の湖」の舞台は、そんな誤解が広がっている状況を思い知らされるものでした。

第1幕は、城ではなく、狩りの野営地。乾杯の場面の後、パドトロワの第1バリアシオンの曲が演奏されます。この曲がこの位置で演奏されることは珍しくありませんが、そのほとんどは、王子の孤独を表現するソロであるのに対して、ウェルチ版では、この曲で、オデットが王子と出会います。この時、オデットの衣装は、伝統的な白鳥の衣装ではなく、普通の人間のようなナイトドレス姿。その後、白鳥の主題が現れる9番の曲では王子とオデットが踊り、続く10番の曲で朝となり、オデットは一旦姿を消します。そして、11番の曲で再登場したオデットは、今度は、定番の白鳥のイメージの衣装になっています。つまり、11番の曲から後は、朝になって白鳥の姿になったオデットを表しているつもりのようなのです。何ということでしょう! 白鳥の姿に変えられてしまいながら、夜の間という制約つきでも王子ジークフリートと出会って踊れるように工夫されたルールなのに、あの「白鳥たちの踊り」の場面を朝の場面だと改変してしまうとは! 白鳥の衣装が紛らわしいというのであれば、衣装を改めればよいわけだし、さらに、白鳥の模型を復活させればもっとわかりやすくなるはずです。それなのに、誤解に合わせた曲解をしてしまうとは! これは、もはや、制作者自身が、どっぷりと、完全な誤解に陥っているのではないかと疑わざるを得ない演出だと思いました。そして、王子の裏切りの後の湖畔の場面では、またまた、ドレス姿の娘たちが登場し、再び朝を向かえるラストシーンで、白鳥たちは、また、白鳥のイメージの衣装に変わるのです。そして、オデットと王子の投身の後、白鳥の姿のまま残された娘たちが統制された動きを続ける中で幕となりましたが、白鳥の衣装が白鳥の姿の表現であることを示し続けてしまったため、ラストが解放どころか永遠の呪いのように見えてしまっているのも皮肉です。ここでもう一度衣装替えをしたいのかと思って見ていたのですが、そうはなりませんでした。そもそも、朝が来て白鳥の姿に戻るタイミングのオデットなら、湖に身を投げても死んだりしないはずなので、投身自殺が成立しないはずなのですが、制作者たちは変だと思わなかったのでしょうか?

このように、疑問を禁じ得ない演出ではありましたが、それでも、面白いと感じる部分はありました。そのひとつが、ほかならぬドレス姿の「白鳥の娘」たちです。王子の裏切りの後の終幕で、ドレス姿で踊られる白鳥たちの踊り(27番の曲)は新鮮でした(27番の後、28番の前に、19番の第2ヴァリアシオンの曲が挿入されていました)。もう、従来の白鳥のイメージのチュチュはやめてもいいのではないか? 少なくとも、普通のドレスか、それに近いチュチュで踊る白鳥たちがあってもよいように思いました。
また、今回、舞踏会の場面で、通常、大幅に短縮されてファンファーレが1回だけになる17番の曲が、長々と演奏され、ファンファーレの回数が、原曲の3回を上回る4回も鳴らされていたのには驚きました。原曲は、花嫁候補6人が2人づつ、3回に分けて入場することを想定し、そのたびにファンファーレが鳴るように作られていますが、プティパ・イワノフ版では、花嫁候補全員が一度に入場し、ファンファーレは1回だけになっています。この曲のファンファーレを原曲通り3回鳴らすバージョンとしては、原曲尊重の姿勢が強いバレエ・アム・ラインのシュレップァー版がありますが、原曲を上回る4回のファンファーレを鳴らすバージョンなど、前代未聞で、そんなバージョンの存在を初めて知りました。しかも、やってみると、それほどしつこいという感じでもないので、やればできるものだなあと思うと同時に、これでは新たな改変になってしまうではないか、という感想も禁じえませんでした。ウェルチ版では、花嫁候補が4人で、それぞれ、ロシア、ハンガリー、スペイン、ナポリの姫となっていて、民族舞踊は花嫁候補たちの踊りになっていました(チャルダッシュは削除)。
その他、変わったところとしては、例えば、第1幕で、通常、パドトロワが踊られるところ、ウェルチ版では王子の友達2人に王妃の娘2人も登場し、パドトロワの曲だけでなく、第3幕のパドシスの曲なども混ざっていました。そして、その前のワルツが無かったような……。
オデットと王子との出会いが通常よりも前倒しになっているのは、通常の出会いのシーンを朝だとしていて、その前の夜のうちに森で出会う場面を作るためであり、そのために、通常は城の場面となる第1幕が狩りの野営地になっているというわけで、これらについては、すべては、上記の誤解に基づく演出だと言えると思います。

〔HP内の「白鳥の湖の基礎知識のページ〕
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/swanlake-g.htm

〔北村正裕ウェブサイト紹介ページ〕
https://masahirokitamura33.wixsite.com/masahirokitamura

〔北村正裕ツイッター〕
https://twitter.com/masahirokitamra

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