架空社から絵本『ものぐさじじいの来世』(小川未明/作、高岡洋介/絵)が出版され、現在、新宿区内にある「ゑいじう」というギャラリーで、原画展が開かれています。会場内で、本の購入もできるようになっています。本日、見てきましたが、ちょうど高岡さんご本人もいらして、ご本にサインをいただいた上、お話しもきかせていただけました。原画展は、14日までとのことですが、詳しいことは、「ゑいじうBlog」の4月9日の記事
http://blog.livedoor.jp/eijiu/archives/50529224.html
に掲載されています。
さて、その絵本ですが、まず、小川未明の数ある作品の中で、あまり知られていないはずのこの作品を絵本化したということだけでも充分価値がある企画だったと思います。おそらく、これまで、文庫本などには収録されてこなかった作品でしょうし、僕も、初めて読みました。
これまで、架空社は、『電信柱と妙な男』(石井聖岳/絵、2004年刊)以来、すでに、小川未明の5作品の5人の画家による絵本を出版しており、例えば、『眠い町』(堀越千秋/絵、2006年)などは、絵の存在感が圧倒的で、未明作品の魅力を再認識させてくれるものでしたが、その『眠い町』や『電信柱と妙な男』、そして、『金の輪』の場合は、物語そのものは、どれも未明の代表作であり、文庫本などの未明作品集にはたいてい収録されているものだったのに対して、今回の『ものぐさじじいの来世』は、僕もそうでしたが、この絵本で初めて読むことになる人が多いのではないでしょうか?そして、読んでみると、これが、なかなかおもしろいのです。『眠い町』などが、先進的ではあっても、現代では普通の感じの文明批評的作品になっているのに対して、『ものぐさじじいの来世』には、有名な未明作品にはあまり感じられないナンセンステールの味があります。結末はフェードアウト的で、もし、絵がなかったら、やや印象が薄いかもしれないと思いましたが、物語全体の雰囲気には好感が持てました。そして、『眠い町』の堀越さんの絵に劣らず存在感のある高岡さんの絵が、この埋もれた物語をよみがえらせることに成功していると思いました。
まず、扉の次の最初のページの絵がすごい!ものぐさじいさんの部屋には、蜘蛛の巣などはあたりまえ、といわんばかりに、床には、なめくじやかたつむりやカエル、そして、極めつけは、ふとんの上にまで生えているキノコ!漫画家の松本零士さんが、若いころ、洗っていないパンツを押し入れに放り込んでおいたところキノコが生えた、という有名な話を思い出したので、原画展の会場にいらした高岡さんにお話ししたところ、高岡さんも松本さんのその話をご存じだったようです。
そして、この絵本を魅力的なものにしている絵のポイントのひとつは、一貫してものぐさじいさんに連れ添っている猫を登場させていることではないかと思いました。これは、文章には全くないことなのですが、まるで違和感がなく、おじいさんが死ぬときも、最後に、海の海草になるときも、猫は、おじいさんと一緒です。これが、この絵本にユーモアと暖かさを与える結果となっていると思います。
おじいさんが「風が寒いから」家から出たくないと言う場面の絵には、鳥や凧に混じって、幽霊のような浮遊物体が空に描かれているのが目に付いたので、原画展の会場で、高岡さんに「これは何ですか?」とおききしたところ、「描いた私にもわかりません」とのことでしたが、物語後半でものぐさじいさんの魂が極楽へ昇天することになるので、それへの伏線のような気がしました。
なお、最後の3点の絵は、原画と絵本との色調に微妙な違いがあり、絵本の方では原画より淡い色調になっていますが、これは、最後の場面が来世であることを考えて、現世を描く場面との色調を意図的に変えるための印刷上の工夫がほどこされているとのことで、これは、架空社の社長さんのアイデアだとのこと、やはり、原画展で、高岡さんがお話ししてくださいました。細かいところまで、ていねいに作られているということがよくわかります。
上記の通り、物語そのものも、この本以外ではなかなか読めない作品だと思うので、絵本ファンのみならず、童話ファンのみなさまにオススメの一冊です。

原画展の情報は、上記「ゑいじうBlog」のほか、
「まごしろう日記」の3月30日の記事
http://plaza.rakuten.co.jp/magoshiro/diary/200703300000/
にもあります。