安房直子さんの童話作品のうち、「きつねの窓」と「鳥」は、それぞれ、かつて、小学校と中学校の教科書に掲載されていた(いずれも教育出版)時期があることもあって、特に人気が高いようで、これまでに、色々な短編集に収録され、ネット上でも話題になることが多い作品です。このうち、絵本化された「きつねの窓」はともかく、「鳥」のほうは、一時期、収録本がことごとく長期品切れとなっていたようなのですが、最近、「きつねの窓」「鳥」両作品を含む作品集が、続々と復活してきており、喜ばしいことだと思います。それらの作品集の中でも、入手しやすいいくつかの文庫版をあげておきますと、
まず、ポプラ社ポケット文庫の「きつねの窓」(2005年)。これは、1980年にポプラ社から発行されたものの新装版です。
次に、偕成社文庫の「風と木の歌」(2006年)。これは、1972年に初版が実業之日本社から出た同名の作品集(安房さんの最初の短編集)の収録作品を文庫版で復活させたものです。
そして、もうひとつ、長い間、品切れが続いていた講談社文庫の「南の島の魔法の話」(1980年)も、復活しているようです。この本では、「鳥」が冒頭におかれており、挿絵とカバーの絵は、安房さんと絶妙のコンビだった味戸ケイコさんです。

ところで、教科書に掲載された安房さんの作品は、「きつねの窓」と「鳥」だけではなく、かなり多数にのぼるようです。
偕成社版「安房直子コレクション7・めぐる季節の話」(04年)の巻末に掲載されている「著作目録」のp.30に教科書掲載作品の一覧があります。
「青い花」「秋の風鈴」「きつねの窓」「木の葉の魚」「すずめのおくりもの」「たぬきのでんわは森の一ばん」「つきよに」「鳥」「ねずみの作った朝ごはん」「はるかぜのたいこ」「ひぐれのお客」「やさしいたんぽぽ」
がリストアップされていますが、何年にどの教科書に掲載されたかも載っています。

余談になりますが、かつて、渋谷にあった童話屋という本屋さんで開かれたお話し会に、安房直子さんが、詩人の工藤直子さんとの対談という形で、珍しくファンの前に姿を現したことがあります。このときの質疑応答の時間に、聴衆のひとりで小学校の先生らしい方が、安房さんに、「作品から子どもに何を学ばせたいですか?」というような趣旨の質問が出て、安房さんが、「何を感じてもらってもよいです」というような趣旨の答えをされていたのを記憶しています。教育の現場で、特定の解釈を押しつけるようなことはしてほしくないですね。教科書に載ったことで、多くの人が安房さんの作品に出会えたということは素晴らしいことですが、それを、あまり「教材」という目では見ないで欲しいものだと、僕も思います。

〔関連のブログ記事〕
「Rongo-Rongo」というブログの06年4月25日の記事
http://blog.so-net.ne.jp/rongo-rongo/2006-04-25

〔HPのプロムナードコーナー内の「安房直子童話集について」のページ〕
http://homepage3.nifty.com/masahirokitamura/awa.htm