金子詔一作詞・作曲による『今日の日はさようなら』は、森山良子の歌で有名になり、60年代のフォークソングの代表曲のひとつであるといってもよいでしょう。70年代以降も歌い継がれ、最近では、アニメ映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年)に、声優の林原めぐみの歌で、挿入歌として、映画の中盤で劇的に使われましたが、『エヴァンゲリオン解読』(北村正裕著)の文庫版として、2010年に静山社文庫の1冊として出版した『完本 エヴァンゲリオン解読』の「文庫版あとがき」の中で、僕は、この映画と『今日の日はさようなら』にも触れて、「内包する悲しみをクローズアップさせられたこの曲も、また、『エヴァ』によって新たな命を吹き込まれたように思える」(P.268)と書きました。「自由」や「信じること」への憧れは、それが危うい状況の中でこそ湧き上がるものでしょうから、この曲に深い悲しみが込められている感じがするのは当然で、僕にも、それは、直観的に感じられていたのですが、映画で、壮絶な戦闘と裏切りのシーンで、この曲が歌われたことで、その「悲しみ」が前面にでてきたように感じたのです。そして、こうなると、この曲の創作にどんな背景があるのかも知りたくなり、金子詔一さんのエッセイを見つけて、読んでみました。金子詔一さんは、ベース奏者のようですが、職業音楽家ではなく、職業としては、英語学校「F.I.A.」の創設者で、そこの事務所から、『今日の日はさようなら』というタイトルのエッセイが発行されていて、無料頒布されていました。F.I.A.のホームページに情報があり、インターネットで申し込むことができました。読んでみると、「ああ、やっぱり」と思えるような記述が。以下、金子詔一さんのエッセイから引用します。

「はじめての海外! 1963年東京オリンピックの前の年である。『ベルリンの壁』があり、壁にはいくつも算段の痕があった。壁を越えようと試みて、毎日、何人もの人が殺されていた―。見張りの機関銃を持った兵士と目を合わせるのが怖くて、目をそらせて、ふと空を見上げると、壁の上を翼を広げた鳩が自由に飛んでいた。
この旅行から帰国して、しばらくして『今日の日はさようなら』は生まれたのだった―」
(2007年3月、F.I.A.発行、金子詔一著『今日の日はさようなら』P.49より)

冷戦下での国家レベルの不信感と殺戮。それが、この曲の背景だったのですね。それを考えると、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で、裏切りと残酷な戦闘のシーンでこの曲が流されたことに、あらためて、深い意味を感じてしまいます。
金子詔一さんは、反戦フォーク、フォークゲリラが盛んだったころに、あえて、そうした直接的なメッセージを歌詞にするのではなく、もっと、ずっと芸術的な歌詞を作ったわけです。エッセイの中には、「僕は、ゲバ棒持って若者らしく権力に楯突くなんてガラじゃない。まねしてみても似合わない」(P.44)という一節もあります。
この曲は、金子詔一さんが所属していたボランティアサークル(「非行防止」の活動をするサークルだったらしいです)の集会で歌われ、その後、フロッギーズというグループが学生のフォークコンサートで歌い、さらに、森山良子によって歌われることになったようです。
さらに、エッセイには、おもしろいことが書かれていました。3番まであるこの曲の歌詞の1番の「明日の日を夢見て希望の道を」という部分は、もともとは、「今日の日はさようなら」となっていて、同じ歌詞が3番まで合計3回繰り返されるようになっていたとのことです。これが、こんにち広く歌われている歌詞に変更されたのは、フロッギーズのメンバーの提案によるものだとのことです。同書P.234に記述があります。金子さん自身、どちらがよいかといったことについては書かれておらず、フロッギーズのメンバーに任せたようですが、「夢見て」という歌詞は、結果として、さらに、古い時代の反戦フォークからの飛躍を決定的にしているようにも思えます。

僕は、昔のメッセージソング、プロテストソングや現代のいわゆる「がんばろうソング」などの社会派ソングが好きになれず、『今日の日はさようなら』や、70年代にフォークグループ「赤い鳥」の歌で有名になった『翼をください』など、叙情派フォークに通じるものをもち、なおかつ童話的な幻想にささえられた歌が好きで、自分でも、そうした、いわば、ナンセンス&メルヘンソングを作り、歌うことが、自分自身の音楽活動のモットーでもありますが、かねて感銘を受けていた「エヴァンゲリオン」の新作映画にこの2曲が使われたことで、また、感銘を深めてしまいました。ちなみに、赤い鳥の『翼をください』にも、70年のレコードバージョンの他に、ライブでよく歌われる「今、富とか名誉ならばいらないけど翼が欲しい」という歌詞のはいったロングヴァージョンがありますが、こちらは、レコード収録時にカットされたのでしょう。もともと「富とか名誉」などに興味もない人間には、「富とか名誉」などという言葉自体、余計な言葉だと感じられるので、このレコードバージョンも成功しているのではないでしょうか。

ところで、今では、フォークソングという言葉は、死後に近くなってしまったのでしょうか?
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』を見た人が、『今日の日はさようなら』のことを、童謡と言ってみたり、さらには、演歌と言う人までいるのには驚きました。フォークソングの代表曲なんですけどね。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は、近々、テレビの「金曜ロードショー」で放送されるとのこと。まだ見ていない人にはオススメの作品です。

ネット上には、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』に触れているブログ記事はたくさんありますが、いくつか紹介しておきます。

「ウツロメブログ」の
http://utsurome.blog23.fc2.com/blog-entry-101.html

「ToLOVEる☆LOVE」というブログの
http://toloverulove.blog121.fc2.com/blog-entry-608.html

「シネマークblog」の
http://cinemark.blog.so-net.ne.jp/2011-07-01

「ひきこもり以上、ニート未満」の
http://doraemonkun.my-sv.net/anime/462/
など。

[当ブログ内の関連記事]
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/51606184.html
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/51606183.html
など。

[HP内のエヴァンゲリオンコーナー]
http://homepage3.nifty.com/masahirokitamura/eva.htm

[音楽用HP内の『完本エヴァンゲリオン解読』紹介ページ]
http://masahirokitamura.art.coocan.jp/evangelion.html