注射器の使い捨てが徹底されていなかった時期の注射などで感染が広がったとされ、「21世紀の国民病」とも言われるC型肝炎の新薬の開発が進み、11月27日には、最短8週の服用でウイルス駆除も可能という新薬が発売されたことを紹介する記事
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52425195.html
を、発売当日に掲載しましたが、その後、29日に、朝日新聞の医療面に、「C型肝炎 副作用少ない治療法」というタイトルで、新薬発売情報を含む、治療法の変化についての記事が掲載されました。
かつて中心だったインターフェロン療法にかわり、飲み薬による治療が中心になるという内容ですが、この記事の中に、気になる記述がありました。それは、「感染者のうち未治療の人は推計約50万人」と書かれている部分です。これは、最近の他の複数の資料の中にある推計値と比べると、極端に小さい数値になっています。この記事の中の推計値については、推計者、出典が書かれていないのですが、最近の他の資料の中でどのようになっているか、少し、紹介しておきます。
まず、先日、11月27日のブログ記事の中でも紹介した、『NHKきょうの健康』テキスト2016年5月号の「ウイルス肝炎の治療」の解説(P.58)には、厚生労働省の調査として、日本のC型肝炎の感染者が190~230万人と推定されること、そのうち、実際に医療機関にかかっているのは約37万人で、「多くの人が感染に気付かずに生活していると考えられます」と書かれており、これに基づけば、未治療患者は、153~193万人ということになります。
次に、2015年12月27日に、治療薬ハーボニの発売元の製薬会社、ギリアド社が朝日新聞に出した全面広告の中の茶山一彰先生の説明では、感染者150~200万人のうち、「未治療の患者さんはおよそ120万人と推定されます」となっています。

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2015年12月27日に朝日新聞に掲載されたギリアド社の全面広告の一部

さらに、治療薬エレルサ/グラジナの発売元の製薬会社、MSD社が運営する「C型肝炎の正しい知識(c-kan.net)」のサイトの中のページ
http://www.c-kan.net/knowledge/05.xhtml
に現在掲載されている説明では、
「わが国でのC型慢性肝炎の患者さんは、肝炎症状のないキャリア(持続感染者)を含めると150万〜200万人いると推測されています。年齢は40歳代以上に多く、C型肝炎ウイルス対策が講じられる以前の輸血などの医療行為による感染が背景にあることを示しています。しかし医療機関で何らかの治療を受けている人は50万人にすぎず、残りの100万〜150万人の中には自分がC型肝炎ウイルスに感染していることに気づいていない人もいる可能性があります」
となっています。
もちろん、現在では、輸血の血液の検査も可能になっていて、注射器の使い捨ても徹底されていると思うので、病気の悪化で亡くなったり、治療で治癒したりして、感染者数は減っていくでしょうが、先日、11月29日の朝日新聞記事の中には、「感染に気づいていない、または知っていても治療していない人が減らなくて残念」という田中篤先生(帝京大学)のコメントも掲載されているので、未治療感染者数として「推定約50万」と書かれていることは、ますます、不可解です。たとえば、未治療感染者のうち、C型肝炎と診断されながら継続受診していない人の数だけを記載してしまったというミスの可能性はないのでしょうか?
患者会「東京肝臓友の会」の会報「東京肝臓のひろば」の2017年6月号(第218号)に、3月19日の泉並木先生(武蔵野赤十字病院院長)の講演録が載っていますが、その8ページに、田中純子先生の計算結果として、患者100~150万人のうち、「C型肝炎と言われても、そのあと『あなたはインターフェロンをやる必要はないですよ』とか『あなたはインターフェロンが効かないです』と言われて通院していない方が25~75万人」と書かれいて、この数値だけを取り出すと、先日の朝日新聞記事の中で未治療感染者数として書かれている数値と一致していると言えるかもしれません。しかし、泉先生の講演録には、「自分がC型肝炎に感染しているとまだご存じない方が約30万人いるだろう」とも書かれており、この推定でも、未治療感染者は55~105万人ということになり、先日の朝日記事の中の推計値は、これよりもさらに小さい値になっています。真相はわかりませんが、未治療感染者は、先日の朝日新聞記事にある「約50万人」よりもかなり多い可能性もあると思います。
いすれにしても、昭和生まれの人は、注射器の使い捨てが徹底されていなかった時期の注射でいつのまにか感染している可能性があるので、一度も検査をしたことがないという方は、早めに検査をされたほうがよいと思います。自覚症状が出ないうちに発見できれば、今では、短期間の服薬で、大きな副作用もなしに、比較的簡単にウイルス駆除ができるようになっていますが、病気が進みすぎていると、最近の新薬も使えないようなので、早期発見、早期治療が重要だと思います。
厚生労働省やマスコミ等による啓発活動にも期待したいと思います。

〔ホームページ内の関連ページ〕
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/c-kan-l.htm

【追記】
11月29日の問題の記事が掲載されていた朝日新聞医療面に記載されていたメールアドレス宛に、先ほど、上記の推計値の件で、他の資料との食い違いが不可解である旨のメールを送信しておきました。紙面等で説明していただけるとありがたいと思っています。
(17.12.1)

【17.12.15追記】
先月のマヴィレット(グレカプレビル/ピブレンタスビル)発売を受けて、日本肝臓学会のC型肝炎治療ガイドライン
https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_c
が改訂され、「第6版」が昨日、ネットで公開されました。
直接作用型抗ウイルス薬(DAA)での治療歴がない場合の慢性肝炎の治療方法としては、ウイルスの遺伝子型が1型の場合も2型の場合も、新薬、グレカプレビル/ピブレンタスビル(GLE/PIB、商品名=マヴィレット)による治療が推奨治療に加わっています。また、1型の場合には、エルバスビル/グラゾプレビル(EBR+GZR、商品名=エレルサ+グラジナ)によるも推奨治療になっており、また、ソホスブビル/レジパスビル(SOF/LDV、商品名=ハーボニー)なども条件付きで推奨治療になっています(P.121参照)。
一方、DAA前治療不成功例のうち、プロテアーゼ阻害薬+NS5A 複製複合体阻害薬(2014年発売のダクラタスビル+アスナプレビル等)による前治療不成功例の場合には、グレカプレビル/ピブレンタスビル(GLE/PIB、商品名=マヴィレット)の他、条件次第ではインターフェロン療法も選択肢になっているようです(P.213参照)。
新ガイドラインのP.57~58を見ると、グレカプレビル/ピブレンタスビル(GLE/PIB、商品名=マヴィレット)の国内第Ⅲ相(最終段階の治験)でのDAA前治療不成功例33例のうち、グレカプレビル/ピブレンタスビルでもウイルス駆除ができなかった2例は、いずれも、「ダクラタスビル+アスナプレビルによる前治療不成功例であり、いずれも治療開始時にNS5A領域P32欠失が認められた」ということであり、ウイルスにこのP32欠失(欠損)という変異が起こっている場合には、条件次第でインターフェロン療法も選択肢になるようです。
ガイドラインP.124には「プロテアーゼ阻害薬+NS5A 阻害薬による前治療の不成功例で、薬剤耐性変異が惹起されている症例への対応には、難易度が高い総合的な判断を要するため、このような症例の適応判断ならびに治療方針は、肝臓専門医によって検討されるべきである」と書かれています。
なお、千葉肝臓友の会による「C型肝炎新薬が出揃ってきた・どう選べばよいのか? ~未治癒患者はどうすればよいのか?~」のページ
http://chiba-kantomo.com/hepatitis-commentary/3453
が昨日改訂されましたが、それによると、新薬、エプクルサ(一般名=ソホスブビル/ベルパタスビル)が、現在、申請中だということです。
昨年、電子出版したエッセイ『歌う童話作家のC型肝炎闘病二十年~副作用の精神症状での半年入院と社会復帰から新薬での治癒までの舞台裏~』(2016年、Kindle版)に書いたように、僕の場合は、2015年にグラゾプレビル+エルバスビル(2016年発売、商品名=グラジナ、エレルサ)の治験でウイルス駆除に成功し、DAAの使用は、そのときだけです。
(17.12.15追記)