先日(24日)、自宅から約5分のところにある雑司が谷旧宣教師館で開催されている絵本『金の輪』(小川未明=作、吉田稔美=絵、架空社=刊)の原画展を見に行ってきました。実は、この絵本、以前、初めて見たときには、そのはっきりした輪郭線が、この物語の幻想的な味わいに合わないように感じ、あまり、好感が持てなかったものなのです。この未明作品は、この世とあの世のつながりを感じさせるもので、世界の境界があいまいな風景をイメージしていたのですが、吉田さんの絵は、くっきりとした境界線が、動的というとりは静的なイメージで、イメージの発散を阻んでしまっているように感じたのです。今回、原画展を見ても、根本的な部分の印象は変わりませんでしたが、しかし、いくつかの収穫がありました。それは、原画そのものよりは、むしろ、会場に掲載されていた吉田さんのメッセージと、展示されていた吉田さんの過去の絵本を見ることができたことです。そのどちらからも、吉田さんの『金の輪』という未明作品への愛着が感じられました。特に、驚いたのは、1998年に架空社より出版された詩絵本『Never Girls』の中に、少女(少年?)が金の輪を回している絵があったことです。この本全体が特に印象に残ったというわけではないのですが、『金の輪』とは直接関係のない詩にこんな絵をつけるということは、吉田さんが、かなり以前から、この未明作品に特別な愛着を持っていたことを示しているように思いました。
今年4月に高岡洋介さんの原画展を見に行って、高岡さんとお話しする機会を得たということは、以前、ブログの4月12日の記事
http://masahirokitamura.blog.drecom.jp/archive/33
に書きましたが、そのときの高岡さんのお話しによると、架空社による未明作品の絵本化の企画の話が出てきたとき、吉田さんは、『金の輪』という作品を指定して作画を希望されたとか。今回、ふと、そのときの高岡さんのお話しを思い出しました。
そんな吉田さんの、『金の輪』への愛着を感じながら、改めて、絵を見てみると、今まで見逃していた絵にも目がとまりました。たった一点の絵ですが、「往来の上を二人でどこまでも走ってゆく夢を見ました」というところにつけられた絵です。ここの絵では、太郎ともうひとりの少年は、決して、往来の上を走っているのではなく、星空の中を飛んでいるのです。「いつしか二人は、赤い夕焼け空の中に入ってしまった夢を見ました」という文に対応するものでしょうが、描かれているのは夕焼け空のさらにその先の宇宙空間の中です。これでこそ、この物語が持つ幻想的な味わいにふさわしい演出ではないでしょうか?吉田さんの場合、地に足のついていない風景の方が味が出るのではないでしょうか?無理に、文が描く通りの風景にしようとしたり、また「輪廻」を表そうと記号的な絵を描いたりするより、もっと自由にイメージを展開したらおもしろい作品になるのではないか?そんなことを考えました。

この原画展は、11月25日まで開かれているとのことで、情報は、
豊島区のHP内の
http://www.city.toshima.tokyo.jp/press/200710/071003-01.html
吉田稔美さんのサイトの中の
http://www.interex.co.jp/Ngirl/kinnowa/index.html
に掲載されているほか、
イラストレーター森流一郎さんのブログの
http://moriryuichiro.at.webry.info/200709/article_15.html
にも掲載されています。