6月1日、雑司が谷鬼子母神・特設紅テントでの劇団唐組の「夕坂童子」(唐十郎作)の公演を見て、レトロ素材と不条理劇との融合の妙味を感じました。
以前、2000年公開のアニメ映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」の中の「夕焼けの町」の美しいシーンについて、HPやこのブログの記事
http://masahirokitamura.blog.drecom.jp/archive/11
の中で、「物語は、一応、"郷愁"の誘惑を振り切って現実に帰還する物語にはなっていますが、そんな一言では割り切れない、深みのある作品で、むしろ、物語の中で"振り切られる"ことで、視聴者にとっては、郷愁の誘惑が、かえって増強されることになり、いわば禁断の美や、破滅への憧れを歌っているように、僕には思えて、そこが感動的でした。一見、現実主義的でありながら、決してそうではなく、少なくとも、現実肯定の作品でないことは確かだと思います」と書きましたが、唐十郎の新作劇「夕坂童子」では、レトロ素材が、不条理劇と見事に融合、調和して、禁断の美へ向かおうとする物語は、一種のロマンティシズム演劇であると言ってもよいようなものになっていると思いました。
主人公の奥山六郎は、終盤で、自ら、水槽の中に飛び込み、蓄音機のラッパに水を吹き込んで、命を与えようとしますが、他の登場人物達は、そのラッパを夕顔に見立て、失われた夕顔を照らすはずの夕陽を追い求めるかのように、そのラッパに手をかざすのです。また、その蓄音機も、劇前半から登場するビクターの犬と対になっているというアイデア!
「オトナ帝国」では、秘密結社「イエスタデイワンスモア」の主宰者たちが表面上は脇役だったのに対して、「夕坂童子」では、主要な登場人物たちが、すべて、いわば幻の夕陽を追い求めているのです。そして、ここまで来ると、もはや、「昔はよかったね」みたいな軽い懐古趣味とは明らかに異質であり、芸術の中のレトロ素材の威力を見る思いがします。レトロ素材の扱われ方が、昭和レトロブームの象徴とも言える映画「ALWAYS 三丁目の夕日」のようなタイプの懐古主義的な作品とは明らかに異質だと思います。定番のレトロ素材に混じって、くみ取り便所のくみ取りホースや便器そのものまで登場し、あたかもレトロへのパロディであるかのようにさえ見えるシーンなどは、レトロの王道からは、明らかにはずれるシーンでしょう。登場人物名も、夕子はともかくとして、骨董品店の女中の暮”子(グレコ)や、ビクターの犬を買って坂下をさまよう情夜涙子(唐十郎自身が演ずる)という名などは、レトロを客体化していることの現れでしょう。ちなみに「夕坂童子」の名は、「暮ちゃん」とともに、終盤の奥山の台詞の中にしか登場せず、この不条理さが、いっそう、ロマンティシズムの味を深めているように思いました。

僕自身は、これまで、自分の創作童話作品を書くときに、ナンセンス(不条理)は意識していたものの、あまり、「レトロ」を意識したことはなく、せいぜい、「郷愁」という要素を意識していた程度だったのですが、先日、このブログの記事
http://masahirokitamura.blog.drecom.jp/archive/45
で紹介した「夕暮れ風鈴楽団」の存在を知ったり、そして、また、今回、唐組の「夕坂童子」公演を見るに至って、最近の自分の作品の中にも、いつのまにか、レトロ素材がはいっているということを意識しないわけにはいかなくなりました。
というのは、まもなく出版予定の絵本『ガラスの中のマリー』
(詳細情報は、HP内の「絵本『ガラスの中のマリー』出版情報」のページ
http://homepage3.nifty.com/masahirokitamura/marie-e.htm
に掲載中)
の舞台は、「ガラスの中のセピア色の町」であり、実際、ほぼすべての絵と写真をセピア色を基調とする色に統一するという作りにすべく制作進行中ですし、今は新しい建物に移転してしまった古いやきとり屋さんの写真や、看板もついていなかったころの古い駄菓子屋さんの写真が使われていたり、また、レトロ路線では定番と言える風鈴の絵が出てきたりと、充分、レトロ素材を使っていると思えるからです。
それどころか、『ガラスの中のマリー』の物語の中に出てくる「テント小屋」は、実は、毎年、雑司が谷鬼子母神境内に現れる唐組の紅テントがモデルになっているのです。『ガラスの中のマリー』の中では、そのテント小屋は、駄菓子屋さんの隣にあるというような設定になっていますが、実際、唐組の紅テントが設営される場所は、駄菓子屋さんの隣ですし、今度の絵本で使う駄菓子屋さんの写真というのは、まさに、その駄菓子屋さんの、古い写真そのものです。というわけで、今回の「夕坂童子」の公演には、何か、因縁めいたものを感じないわけにはいきませんでした。もちろん、僕の作品と唐組の「夕坂童子」の雰囲気は、これまた、全く異質だと思いますが。

今回の「夕坂童子」の雑司が谷鬼子母神特設紅テントでの公演は、6月1日で終了していますが、このあと、まだ、新宿花園神社での公演の予定があるので、まだご覧になっていない方で、レトロ素材と不条理劇との融合の妙味を味わいたいという方がいらっしゃいましたら、観劇されるとおもしろいかもしれませんよ。
最終日は6月15日で、詳しい日程は、たとえば、「ぴあ」の情報ページ
http://artists.pia.jp/pia/artists.do?artistsCd=11010507
に掲載されています。

なお、4月の大阪公演の観劇記事 が、「せっかくやもん」というブログの
http://blogs.yahoo.co.jp/korokorobooboo/37275249.html
に、また、先月の新宿公演の記事が、「haruharu劇場」というブログの
http://haruharuy.exblog.jp/8083637/
にあります。

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