2017年夏の「木村唯生誕20年」の20回連載ツイートで、2014年の動画を中心に、花やしき少女歌劇団の動画の紹介をし、それらのツイートへのリンクを、2017年8月13日のブログ記事
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52419821.html
を載せていますが、まもなく、また、夏がやってくるこの時期に、あらためて、2014年夏の花やしき少女歌劇団による「8月のメリーゴーランド」(織音作詞・蓮沼健介作曲)の4つの動画(7/13、7/20、8/10、8/24)を、少し、詳しく見てみたいと思います。
いずれも、上記ブログ記事にリンクがある連載ツイートで紹介したもので、それぞれ、第①回、第⑦回、第⑯回、第⑰回のツイートに動画へのリンクがあります。
7/13と8/10の動画は、Contarex tokyoチャンネルの動画、7/20と8/24の動画は、hanayashikimusicチャンネルの動画で、いずれもYouTubeに投稿されたものです。
入場シーン
画面右から登場するメンバーの先頭は小坂衣純さん(当時高校1年生)。同時に、画面左からは、椅子に座った木村唯さん(当時高校2年生)と、唯さんの椅子を押す柳井萌花さん(当時中学1年生)が登場しますが、萌花さんが、唯さんの椅子を押しながらゆっくりと舞台中央に進んで中央で、椅子の車輪のストッパーをかけるのに対して、右から入場する衣純さんは、まっすぐ舞台前方に進み、一番先に、ダンスのポーズに入ります。ひとつの曲をまるごと一人の歌手が歌うのは、花やしき少女歌劇団では、この夏の唯さんが歌う「8月のメリーゴーランド」が初めてでしょうから、唯さんにとっては、気合のはいる晴れの舞台であると同時に、重圧もあって当然ですし、右足の義足をつけて椅子に座って歌う唯さんの椅子を舞台中央にセッティングする重責を担う萌花さんにも、かなりの重圧がかかるはずです。この入場シーンでは、少し先に舞台前方に進んでダンスのポーズにはいる衣純さんが、唯さんと萌花さんに重圧をかける観客の視線の一部を自らに向けさせて、萌花さんたちにかかる重圧を少しでも軽減する役割をになっているように見えます。この前年のステージでも唯さんをサポートする重要な役割を担ってきた衣純さんの、ここでの重要な役割に、まず、注目したいところです。この入場シーンは、7/20のライブ映像が、とても見やすいアングルになっています。この動画は、17年7月20日のツイート
https://twitter.com/masahirokitamra/status/887968350885695488
で紹介したものです。曲が始まるときのメンバーのポジションは、画面左から、塩田怜里さん、酒井美紅さん、柳井萌花さん、木村唯さん、村岡桃香さん、大橋妃菜さん、小坂衣純さんです。ただし、8/24のステージでは、村岡桃香さんがお休みで、柳井萌花さんのポジションが、唯さんの真後ろにシフトしています。なお、7/20と8/24の映像には、入場シーンの前の場内アナウンスも収録されています。「お待たせしました。ただいまより花やしき少女歌劇団のショーをスタートいたします。それでは、どうぞ!」という唯さんの声。これは、あらかじめ録音されたものと思われます。中学3年だった2012年秋に右足の筋肉にできたがんが見つかり、翌2013年夏ごろまで抗がん剤治療を受けている間、花やしきのステージに出られない状態だった唯さんになんとかステージに参加してもらおうと、場内アナウンスで参加してもらおうと考えた歌劇団のスタッフが、自宅にお見舞いに行ったときに録音したということが、『生きて、もっと歌いたい』(芳垣文子著、2017年10月)第2章(P.44)に書かれています。僕には、「ショーを」というところが「ショーの」と言っているように聞こえるのですが、日本語としては「ショーを」が正しいわけですよね。
最初にダンスのポーズにはいる小坂衣純さん(右端)
唯さんと萌花さんが交わした一瞬のアイコンタクト(7/13)
唯さんの椅子を舞台中央に固定した萌花さんは、唯さんから見て右隣りの自分のポジションに移動してダンスのポーズにはいらなければいけないのですが、7/13の動画に限り、ここで、とても興味深いシーンが見られます。ダンスのポーズに入りかけた萌花さんが、一瞬、唯さんの方を振り返っています。重要な役割、うまくいったのか、もう一度、確かめたくなったのでしょう。「唯ちゃん大丈夫かな?」、そんな一瞬の心配が動画から読み取れます。そして、その動作と同時に、唯さんが、右隣りの萌花さんのほうを振り向いたため、ここで、一瞬、ふたりの目が合っています。ふたりとも、ヘッドセットのマイクがついているので、ここで、声を出すことはありませんが、まるで、お互いに声をかけたかのように同時に顔を向け合う二人。唯さんは、萌花さんが自分のポジションにつくタイミングを確かめたかったのかもしれませんが、一瞬、見つめ合う二人のシーンを見ると、もしかすると、唯さんにも、大役を務める直前の不安な気持ちが隠せなかったのかもしれないとも思えます。萌花さんの姿を確認することで、自分の気持ちを落ち着かせようとした一瞬の行動だったのかもしれないとも見えます。結果的に、ここで、二人が一瞬のアイコンタクトを交わすことになり、「大丈夫だよね」「がんばろう」という合図が交わされているように見えて、このシーン、とても好きなシーンです。奇蹟とも言えるような「8月のメリーゴーランド」の名演は、この直後に誕生するのです。この7/13の「8月のメリーゴーランド」の動画は、17年7月13日のツイート
https://twitter.com/masahirokitamra/status/885441501051867136
で紹介し、「唯さんの多数のネット動画の中で、一番のお気に入りの動画」と書きましたが、今でも、この日の歌唱は、唯さんの最高のパフォーマンスだと感じています。7/20の冒頭では、萌花さんは、唯さんの椅子を固定した後、すぐに自分のポジションにはいりますが、唯さんは、7/20にも、萌花さんの姿を確かめるように、一瞬、右側を向く動作をしています。さらに興味深いのは、8/24の映像。この日は、村岡桃香さんが休んでいるため、萌花さんのポジションが、少しずれて、唯さんの真うしろになるのですが、この日も、唯さんは、スタート直前、一瞬、萌花さんの定位置の方を見る動作をしています。そこには、萌花さんの姿は見えないはずなのですが。後ろから入場する酒井美紅さんがポジションにはいるタイミングを確認しているのでしょうか?それとも、萌花さんが、見えない位置にまわっていることを間接的に確認しているのでしょうか?あるいは、7/13の萌花さんとの「アイコンタクト」の記憶がそうさせるのでしょうか?
「8月のメリーゴーランド」スタート直前に一瞬見つめ合う柳井萌花さん(左)と木村唯さん
「キミのまわりを まるで8月のメリーゴーランド」
「シャツの袖をつかんでちょこちょこ歩き 急に止まるから」という歌詞から想像されるこの歌の中の子どもは2歳くらいでしょうか?これに続く「私思わず キミのまわりをくるくる まるで8月のメリーゴーランド」という歌詞に合わせ、6人(8/24は5人)のダンスメンバーが中央で歌う唯さんを囲んで輪を作り、花やしきのメリーゴーランドと同じ半時計まわりに回ります。そして、最初に内側を向いて輪を作っ後、続いて、外側を向いて輪を作っての回転も見せてくれます。これは、かなりの練習をしないとできない技でしょう。そして、メンバー全員の息が合っていないとできない演技でしょう。村岡桃香さんがお休みしている8/24のステージでは、代役をいれず、メンバーの間隔を少し詰めることで乗り切っています。
♪まるで8月のメリーゴーランド
「思い出いっぱい作りましょう」(1回目)
2回登場する「思い出いっぱい作りましょう」という歌詞。1回目ではダンサー6人が、「思い出」で手を前で交差、そして、「いっぱい」という歌詞に合わせて、両腕を大きく広げて上にあげて回転しますが、7/20の公演では、こ動きに合わせて、唯さんも「思い出」で手を胸に、「いっぱい」で手を上にあげて見せます。唯さんのこの演技は、8/24の公演では、2回目に同じ歌詞が登場するところで演じられ、そのときには、中央付近でお手玉を披露する柳井萌花さん以外のダンスメンバ―4人の振りに合わせた動きになっています。「思い出いっぱい作りましょう」という楽しい歌詞と演技。でも、その歌詞には、いつか、これが、「思い出」になってしまうという寂しさの予感も漂い、そういうところが、この歌詞をより魅力的なものにしていると思います。そして、その後、7/20の公演で、また、唯さんが、7/13の公演で見せなかった演技を見せてくれます。
♪思い出
♪いっぱい
「ショーウィンドウに映るキミ」
7/13の木村唯さんの歌唱が最高だと感じさせる部分の例として、07年7/13のツイートにも書いたことですが、「逮捕しちゃうぞ」という織音さんの詩を甘く優しい声で歌う唯さんの美しい歌声!「た」は唯さんの声の甘味が特によく出るeに近い音で強めに歌い、「ぞ」は揺らしながら優しく響くaに近い音への変化。まさに一音入魂の歌唱だと思います。歌唱に全力を挙げているこの日の唯さんの手の演技は控えめで、予定の振りをこなしているだけですが、翌週の7/20の公演では、7/13には見られなかった演技が加わっています。曲の後半にはいるとき、メンバーの左右の位置が逆転しますが、その後、後半にはいって、「ショーウィンドウに映るキミ」と歌われる部分で、7/13には見られなかった演技が始まります。「キミ」という歌詞に合わせて、唯さんが右手人差し指を出して、「キミ」を指さすような演出。これは、7/13にはなかった演出です。唯さん本人が考えた振りなのかもしれません。唯さんのこのジェスチャーは、8/10では封印されますが、8/24には再び登場します。メンバー全体の振りは、この部分、唯さん以外のダンサー6人全員が後ろ向きになってステップを踏むという大胆なものですが、そう言えば、「ショーウィンドウに映る」姿は、前後が逆になるわけですね。それにしても、「また少し背が伸びたようですね」と、子どもの成長を喜ぶ母親目線の歌詞の後、「私を置いて大人になるのは ルール違反で逮捕しちゃうぞ」という歌詞のなんと素晴らしいことか!いつか巣立ってしまう日の寂しさを予感させながら、今の幸せを歌うこの歌詞の最大のポイントで、唯さんの歌唱力が最大限に発揮されているとい思います。
♪ショーウィンドウに映るキミ
「思い出いっぱい作りましょう」(2回目)
この歌詞の中に、二度登場する「思い出いっぱい作りましょう」という歌詞。二度目にこの歌詞が現れる場面。ダンスメンバー6人のうち、唯さんに近い位置の柳井萌花さん(画面右)と村岡桃香さん(画面左)の二人がお手玉のパフォーマンスを見せますが、この二人のうち、村岡桃香さんは、8/24の公演では出演しておらず、その日は、全体のフォーメーションを微修正して、柳井萌花さんが、唯さんの真うしろでお手玉のパフォーマンスを見せます。そして、8/24の公演では、7/20の公演の1回目のこの歌詞の登場場面で演じられていた唯さんも加わるこの振りが、ここで、お手玉を披露する柳井萌花さん以外の4人のダンスメンバーと、中央で歌う唯さんの5人で演じられます。そして、その後、歌のラストに近づいたところで、7/20の公演で、唯さんが、またしても、7/13の公演で見せなかった演技を見せてくれます。
♪思い出
♪いっぱい
「キミと私の二人の夏が」
この歌詞の中の母親は、冒頭から、かなり若く、おしゃれなイメージで描かれていますが、ラストに近づいたとき、歌詞の中の母親は、子どもに「キミと私の二人の夏が」という言葉を使います。これは、この親子の家庭に父親がいないことをうかがわせる歌詞ですが、まるで、子どもを恋人のようにひたすら愛する母性愛が歌われるこの歌詞に合わせて、7/20の公演で、唯さんは、7/13の公演では見せなかった演技を見せてくれます。「キミ」で、右手人差し指を挙げ、「私」で、両手を胸に当て、「二人の夏」という歌詞に合わせて、右手の二本の指で「二人」を表現します。この一連の演技のうち、「キミ」の部分の演技は8/10には封印されますが、8/24には復活。「私」の部分の演技は、8/10でも8/24でも見せてくれます。そして、「二人の夏」の部分の演技は、8/10は同じで、8/24には、右手だけでなく、両手で演技して見せます。結果的に、4つの公演の中に、同じ演技のものは全くないのです。一期一会の演技を唯さんが意識していたかどうかはわかりませんが、少なくとも、結果はそうなっています。
♪夏が来ました 夏が来ました
♪キミと
♪私の
♪二人の夏が
♪二人の夏が
「二人は8月のメリーゴーランド」
歌のラスト、「二人は8月のメリーゴーランド」という歌詞に合わせて、前半の「キミのまわりを まるで8月のメリーゴーランド」のところと同じように、6人(8/24は5人)のダンスメンバーが中央で歌う唯さんを囲んで輪を作り、花やしきのメリーゴーランドと同じ半時計まわりに回ります。そして、最初に内側を向いて輪を作っ後、続いて、外側を向いて輪を作っての回転も見せてくれます。そして、ラストシーン。全員が、笑顔で、バレエ「コッペリア」や「くるみ割り人形」に登場する人形たちを思わせる可愛らしいポーズをとりますが、スタート時とは左右が入れ替わっていて、画面左から、小坂衣純さん、大橋妃菜さん、村岡桃香さん、木村唯さん、柳井萌花さん、酒井美紅さん、塩田怜里さん。ただし、村岡桃香さんがお休みの8/24は、柳井萌花さんが、木村唯さんの後ろにシフト、さらに、この日は、7月のステージで両サイドのポジションだった小坂衣純さんと塩田怜里さんのラストポジションが、前方中央寄りにシフトし、大橋妃菜さんと酒井美紅さんがサイドにシフトして、5人が唯さんを囲むようなフォーメーションになっています。
♪二人は8月のメリーゴーランド
内側向きの後は外側を向いての輪で回転
「8月のメリーゴーランド」のラストシーン
左から小坂衣純さん、大橋妃菜さん、村岡桃香さん、木村唯さん、柳井萌花さん、酒井美紅さん、塩田怜里さん
「8月のメリーゴーランド」(8/24)のラストシーン
左から大橋妃菜さん、小坂衣純さん、柳井萌花さん(後方)と木村唯さん、塩田怜里さん、酒井美紅さん
歌詞について
すでに記したとおり、いつか巣立ってしまう日の寂しさを予感させながら、子どもの成長を喜ぶ母親目線の母性愛と幸福感を歌う歌詞。そして、母親は、冒頭から、かなり若く、おしゃれなイメージで描かれ、この親子の家庭に父親がいないことをうかがわせる表現もありますが、僕には、この歌詞に描かれている親子のシーンは、作詞者の想像する西暦2000年の7月下旬か8月上旬ごろ、描かれている子どもは、まもなく3歳になる女の子なのではないかとも思えます。そして、母親が若いイメージで描かれていることが、女の子に、やがて新しいお父さんができることを暗示しているようにも思えます。お母さんの愛情を一身に受けて育った少女は、花やしきのアイドルとなり、病気と闘いながらも、再び、花やしきのステージに戻ってきて、お母さんからもらった愛情を、感謝を込めて生き生きと歌う。これが、作詞者が考えたストーリーなのではないかと想像してしまいます。2015年に唯さんが亡くなった後、関係者への取材を重ねて書かれて2017年10月に出版された芳垣文子さんによる唯さんの伝記本「生きて、もっと歌いたい」には、唯さんのお母さんが、唯さんが1歳のときに離婚していること、唯さんは、3歳のときから新しいお父さん(唯さんは「父ちゃん」と呼んでいたとのこと)と3人で暮らしていたことが記されています。そして、「8月のメリーゴーランド」の作詞者の織音(おりおん)さんは、花やしき社長の弘田昭彦さんのペンネーム。唯さんの誕生日は8月13日です。だから、この歌は「8月のメリーゴーランド」なのだ、というのは、少し、考えすぎでしょうか。しかし、右足の切断手術にもかかわらず、がんが全身に転移してしまったことを、本人も、周囲の大人たちも知っていた2014年の春から夏にかけて、義足で立ち上がるためのリハビリを始め、とうとう、短時間なら立ち上がって歌えるようになった唯さんに、夏、新曲「8月のメリーゴーランド」を一人で全曲歌うステージが用意され、花やしきの音楽制作を担当していた作曲者の蓮沼健介さんも、ダンスの振付、指導を担当していた足立美幸さんも、歌劇団のダンスメンバーも、全員が全力を挙げて、最高のパフォーマンスでステージを作っているのは、残されたライブ映像に記録されている通りです。「私を置いて大人になるのは ルール違反で逮捕しちゃうぞ」という歌詞のすばらしさについては、すでに書きましたが、「私を置いて大人になる」というのは、直接的には自立して巣立つという意味ですが、別の世界に旅立つという意味でもあり、そこに隠された悲しみの予感が、この歌詞を決定的に感動的なものにしているのだと思います。
もうひとつの名曲『空へ』について
「8月のメリーゴーランド」と同じ時期に、花やしき少女歌劇団のもうひとつの名曲「空へ」が登場します。「8月のメリーゴーランド」が仲間たちに囲まれた唯さんが一人で歌う曲であるのに対して、少し先に披露された「空へ」は、義足で立ち上がった唯さんを中心にして、メンバー全員で歌う歌です。立ち上がって仲間たち(大橋妃菜さん、柳井萌花さん)と手をつないで唯さんが仲間たちと一緒にこの歌を歌ったのは2014年6月29日ですが、翌週には、唯さんは、手を離して、仲間たちと一緒に、両手で手話の振りを演じながら歌っています。この曲は、MCで「花やしきの花たちの歌」と紹介されますが、この「花やしきの花」というのは、花やしき少女歌劇団の少女たちのことなのだろうと思いますが、とりわけ、その輪の中心にいる木村唯さんのことなのでないかと思います。。花たちに「ありがとう」という歌詞が繰り返されるこの曲は、ハ長調で始まりますが、少し長めの間奏の後、ホ短調に転調し、寂しさを感じさせる曲調に変化します。そこでは、「その歌声 宝物だよ 笑顔の涙 忘れない」と歌われ、その後、曲は、再び転調してハ長調の明るい曲調に戻るのです。14年6月29日の映像を見ると、この日は、唯さんがMCを担当し、唯さんの左手を握っている柳井萌花さんは、マイクをつけずに歌っています。ここでの萌花さんの最大の役割は、ステージで義足で立ち上がって歌う唯さんのサポートなのでしょう。場合によっては、声を出して仲間に合図を送る司令塔の役割も想定されていたように思えます。これは、13年6月に、唯さんが右足の切断手術の前に一時復帰して、初めて椅子に座ってステージに登場したときに、サポート役の小坂衣純さんがマイクをつけずに唯さんの隣に座って歌っていた映像を思い起こさせます。「空へ」の前奏と間奏では、唯さんを中心に少女たちが作る花がゆっくりと開花していき、開いた「花」の中から唯さんが現れます。「8月のメリーゴーランド」のダンサーが大きな動きを見せていたのと対照的に、唯さんと一緒に全員が演技するこの曲の振りが手話であるということにも注目です。手話を採用するというアイデアには、ハンディを乗り越えてがんばるメンバーへのエールという意味もあるのかもしれないと思うこともあります。
この14年6月29日の動画は、昨年8/12のツイート
https://twitter.com/masahirokitamra/status/896282019730120704
で紹介していますが、YouTubeのContarex tokyoチャンネルの動画です。14年6月29日に唯さんが義足で立ち上がって「空へ」を歌ったことは、翌月の「8月のメリーゴーランド」の名演にもつながったように思われてなりません。
唯さんは、2015年10月14日に亡くなってしまいましたが、その後、「空へ」での花の開花を現す演出もなくなり、ヘッドセットからハンドマイクに変わって、少人数で歌われるようになってからも、原典版の手話の振りは受け継がれていきます。2017年3月の小坂衣純さんの卒業公演は、会場の花やしき座で見ましたが、その公演の最後にこの曲が歌われたときには、曲の最後、ボーカルを後輩のメンバーにまかせた小坂衣純さん、柳井萌花さんら4人が、目を閉じ、黙とうするような姿勢をとってからゆっくりと、空へ向かって顔をあげるという演出が実行され、当時、別の曲のボーカルを担当していた大橋妃菜さんも、この曲でマイクを持たずに舞台右手に登場し、両手での手話の演技を見せてくれました。
2017年2月に、この曲のメインボーカルを担当した柳井萌花さんは、重圧からか、曲の終盤、上手く声が出なくなってしまうというハプニングがあり、そのときの映像もネットで公開されていますが、2018年4月に再びこの曲のメインボーカルを担当した萌花さんは、最後までしっかりと歌いきり、現在、花やしき少女歌劇団の中心メンバーとして活動を続けています。
16年10月8日の朝日新聞の記事には、15年10月に唯さんが亡くなった直後のことが、次のように記されています。「訃報は、歌劇団の仲間に伝えられた。柳井萌花さんは、記憶がなくなるくらい泣いた。翌日、同じ中学校に通う村岡桃香さんと抱き合った。(中略)告別式の日。歌劇団の少女たちはひつぎを囲んで、歌劇団の代表曲『空へ』を、振りの手話をつけて歌い、唯さんを送り出した」(朝日新聞16年10月8日記事より)
木村唯さんを中心に少女たちが作る花がゆっくりと開いていく間奏シーン
♪その歌声
♪宝物だよ
♪笑顔の
♪涙
♪忘れない
♪空へ 空へと伸びる
(中央で手を結ぶ3人は、画面左から大橋妃菜さん、木村唯さん、柳井萌花さん)
長く花やしき少女歌劇団で振付、ダンス指導を担当され、17年11月に歌劇団を離れられた足立美幸さんは、17年12月11日のインスタグラムへの投稿
https://www.instagram.com/p/BchvOIaFed5/
で、「『花やしき少女歌劇団』を語る上で欠かせない唯の存在、私が担当し始めた頃から切磋琢磨し共にステージを作り上げた大切な生徒であり仲間。たくさんの事に気付かせてくれ教えてくれた。三回忌を迎えた今も、唯がこの場にいない事は本当に悔しい」と書かれています。
14年夏の「8月のメリーゴーランド」の7人の出演メンバーのうち、現在、ただ一人、歌劇団に残っている柳井萌花さんは、17年5月のツイート
https://twitter.com/MoekaYanai/status/863548491443748864
で、「今日唯ちゃんのお下がり着てる 自分から唯ちゃんの匂いがする とてつもなく嬉しい 今日のステージも頑張れる気がする」と書いています。
〔関連ツイート〕
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1007061703584931840
https://twitter.com/masahirokitamra/status/994871148855820289
https://twitter.com/masahirokitamra/status/831449748934496257
〔HP内の関連ページ〕
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/merrygoround-l.htm
花やしきの花壇(2017.8.20撮影)
花やしきのメリーゴーランド(2017.8.20撮影)
現在の花やしき少女歌劇団のメンバーの一部(18.3.18、終演後、花やしき通りで撮影)
左から百々香さん、カレンさん、萌花さん、咲彩(さあや)さん、結花さん
https://youtu.be/KZdaKNFqk-s
https://youtu.be/KZdaKNFqk-s
*「花の少女」(北村正裕作詞・作曲)は、花やしき少女歌劇団で活躍した木村唯さんへのオマージュとして作った曲です。
【追記】
ブログ記事掲載のお知らせツイートしました。
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1012593014756106240
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1012599984284422145
【18. 7.26追記】
「8月のメリーゴーランド」(織音作詞、蓮沼健介作曲)には、僕の上記のような解釈とは全く別の解釈をしている人も多数いるようです。
それについては、ツイッターの
https://twitter.com/_398_SAKUYA/status/1015986889042509829
から始まるスレッドと、
https://twitter.com/_105_TOKO/status/1017793961451089920
から始まるスレッドをご参照ください。
(18. 7.26追記)
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52419821.html
を載せていますが、まもなく、また、夏がやってくるこの時期に、あらためて、2014年夏の花やしき少女歌劇団による「8月のメリーゴーランド」(織音作詞・蓮沼健介作曲)の4つの動画(7/13、7/20、8/10、8/24)を、少し、詳しく見てみたいと思います。
いずれも、上記ブログ記事にリンクがある連載ツイートで紹介したもので、それぞれ、第①回、第⑦回、第⑯回、第⑰回のツイートに動画へのリンクがあります。
7/13と8/10の動画は、Contarex tokyoチャンネルの動画、7/20と8/24の動画は、hanayashikimusicチャンネルの動画で、いずれもYouTubeに投稿されたものです。
入場シーン
画面右から登場するメンバーの先頭は小坂衣純さん(当時高校1年生)。同時に、画面左からは、椅子に座った木村唯さん(当時高校2年生)と、唯さんの椅子を押す柳井萌花さん(当時中学1年生)が登場しますが、萌花さんが、唯さんの椅子を押しながらゆっくりと舞台中央に進んで中央で、椅子の車輪のストッパーをかけるのに対して、右から入場する衣純さんは、まっすぐ舞台前方に進み、一番先に、ダンスのポーズに入ります。ひとつの曲をまるごと一人の歌手が歌うのは、花やしき少女歌劇団では、この夏の唯さんが歌う「8月のメリーゴーランド」が初めてでしょうから、唯さんにとっては、気合のはいる晴れの舞台であると同時に、重圧もあって当然ですし、右足の義足をつけて椅子に座って歌う唯さんの椅子を舞台中央にセッティングする重責を担う萌花さんにも、かなりの重圧がかかるはずです。この入場シーンでは、少し先に舞台前方に進んでダンスのポーズにはいる衣純さんが、唯さんと萌花さんに重圧をかける観客の視線の一部を自らに向けさせて、萌花さんたちにかかる重圧を少しでも軽減する役割をになっているように見えます。この前年のステージでも唯さんをサポートする重要な役割を担ってきた衣純さんの、ここでの重要な役割に、まず、注目したいところです。この入場シーンは、7/20のライブ映像が、とても見やすいアングルになっています。この動画は、17年7月20日のツイート
https://twitter.com/masahirokitamra/status/887968350885695488
で紹介したものです。曲が始まるときのメンバーのポジションは、画面左から、塩田怜里さん、酒井美紅さん、柳井萌花さん、木村唯さん、村岡桃香さん、大橋妃菜さん、小坂衣純さんです。ただし、8/24のステージでは、村岡桃香さんがお休みで、柳井萌花さんのポジションが、唯さんの真後ろにシフトしています。なお、7/20と8/24の映像には、入場シーンの前の場内アナウンスも収録されています。「お待たせしました。ただいまより花やしき少女歌劇団のショーをスタートいたします。それでは、どうぞ!」という唯さんの声。これは、あらかじめ録音されたものと思われます。中学3年だった2012年秋に右足の筋肉にできたがんが見つかり、翌2013年夏ごろまで抗がん剤治療を受けている間、花やしきのステージに出られない状態だった唯さんになんとかステージに参加してもらおうと、場内アナウンスで参加してもらおうと考えた歌劇団のスタッフが、自宅にお見舞いに行ったときに録音したということが、『生きて、もっと歌いたい』(芳垣文子著、2017年10月)第2章(P.44)に書かれています。僕には、「ショーを」というところが「ショーの」と言っているように聞こえるのですが、日本語としては「ショーを」が正しいわけですよね。
最初にダンスのポーズにはいる小坂衣純さん(右端)
唯さんと萌花さんが交わした一瞬のアイコンタクト(7/13)
唯さんの椅子を舞台中央に固定した萌花さんは、唯さんから見て右隣りの自分のポジションに移動してダンスのポーズにはいらなければいけないのですが、7/13の動画に限り、ここで、とても興味深いシーンが見られます。ダンスのポーズに入りかけた萌花さんが、一瞬、唯さんの方を振り返っています。重要な役割、うまくいったのか、もう一度、確かめたくなったのでしょう。「唯ちゃん大丈夫かな?」、そんな一瞬の心配が動画から読み取れます。そして、その動作と同時に、唯さんが、右隣りの萌花さんのほうを振り向いたため、ここで、一瞬、ふたりの目が合っています。ふたりとも、ヘッドセットのマイクがついているので、ここで、声を出すことはありませんが、まるで、お互いに声をかけたかのように同時に顔を向け合う二人。唯さんは、萌花さんが自分のポジションにつくタイミングを確かめたかったのかもしれませんが、一瞬、見つめ合う二人のシーンを見ると、もしかすると、唯さんにも、大役を務める直前の不安な気持ちが隠せなかったのかもしれないとも思えます。萌花さんの姿を確認することで、自分の気持ちを落ち着かせようとした一瞬の行動だったのかもしれないとも見えます。結果的に、ここで、二人が一瞬のアイコンタクトを交わすことになり、「大丈夫だよね」「がんばろう」という合図が交わされているように見えて、このシーン、とても好きなシーンです。奇蹟とも言えるような「8月のメリーゴーランド」の名演は、この直後に誕生するのです。この7/13の「8月のメリーゴーランド」の動画は、17年7月13日のツイート
https://twitter.com/masahirokitamra/status/885441501051867136
で紹介し、「唯さんの多数のネット動画の中で、一番のお気に入りの動画」と書きましたが、今でも、この日の歌唱は、唯さんの最高のパフォーマンスだと感じています。7/20の冒頭では、萌花さんは、唯さんの椅子を固定した後、すぐに自分のポジションにはいりますが、唯さんは、7/20にも、萌花さんの姿を確かめるように、一瞬、右側を向く動作をしています。さらに興味深いのは、8/24の映像。この日は、村岡桃香さんが休んでいるため、萌花さんのポジションが、少しずれて、唯さんの真うしろになるのですが、この日も、唯さんは、スタート直前、一瞬、萌花さんの定位置の方を見る動作をしています。そこには、萌花さんの姿は見えないはずなのですが。後ろから入場する酒井美紅さんがポジションにはいるタイミングを確認しているのでしょうか?それとも、萌花さんが、見えない位置にまわっていることを間接的に確認しているのでしょうか?あるいは、7/13の萌花さんとの「アイコンタクト」の記憶がそうさせるのでしょうか?
「8月のメリーゴーランド」スタート直前に一瞬見つめ合う柳井萌花さん(左)と木村唯さん
「キミのまわりを まるで8月のメリーゴーランド」
「シャツの袖をつかんでちょこちょこ歩き 急に止まるから」という歌詞から想像されるこの歌の中の子どもは2歳くらいでしょうか?これに続く「私思わず キミのまわりをくるくる まるで8月のメリーゴーランド」という歌詞に合わせ、6人(8/24は5人)のダンスメンバーが中央で歌う唯さんを囲んで輪を作り、花やしきのメリーゴーランドと同じ半時計まわりに回ります。そして、最初に内側を向いて輪を作っ後、続いて、外側を向いて輪を作っての回転も見せてくれます。これは、かなりの練習をしないとできない技でしょう。そして、メンバー全員の息が合っていないとできない演技でしょう。村岡桃香さんがお休みしている8/24のステージでは、代役をいれず、メンバーの間隔を少し詰めることで乗り切っています。
♪まるで8月のメリーゴーランド
「思い出いっぱい作りましょう」(1回目)
2回登場する「思い出いっぱい作りましょう」という歌詞。1回目ではダンサー6人が、「思い出」で手を前で交差、そして、「いっぱい」という歌詞に合わせて、両腕を大きく広げて上にあげて回転しますが、7/20の公演では、こ動きに合わせて、唯さんも「思い出」で手を胸に、「いっぱい」で手を上にあげて見せます。唯さんのこの演技は、8/24の公演では、2回目に同じ歌詞が登場するところで演じられ、そのときには、中央付近でお手玉を披露する柳井萌花さん以外のダンスメンバ―4人の振りに合わせた動きになっています。「思い出いっぱい作りましょう」という楽しい歌詞と演技。でも、その歌詞には、いつか、これが、「思い出」になってしまうという寂しさの予感も漂い、そういうところが、この歌詞をより魅力的なものにしていると思います。そして、その後、7/20の公演で、また、唯さんが、7/13の公演で見せなかった演技を見せてくれます。
♪思い出
♪いっぱい
「ショーウィンドウに映るキミ」
7/13の木村唯さんの歌唱が最高だと感じさせる部分の例として、07年7/13のツイートにも書いたことですが、「逮捕しちゃうぞ」という織音さんの詩を甘く優しい声で歌う唯さんの美しい歌声!「た」は唯さんの声の甘味が特によく出るeに近い音で強めに歌い、「ぞ」は揺らしながら優しく響くaに近い音への変化。まさに一音入魂の歌唱だと思います。歌唱に全力を挙げているこの日の唯さんの手の演技は控えめで、予定の振りをこなしているだけですが、翌週の7/20の公演では、7/13には見られなかった演技が加わっています。曲の後半にはいるとき、メンバーの左右の位置が逆転しますが、その後、後半にはいって、「ショーウィンドウに映るキミ」と歌われる部分で、7/13には見られなかった演技が始まります。「キミ」という歌詞に合わせて、唯さんが右手人差し指を出して、「キミ」を指さすような演出。これは、7/13にはなかった演出です。唯さん本人が考えた振りなのかもしれません。唯さんのこのジェスチャーは、8/10では封印されますが、8/24には再び登場します。メンバー全体の振りは、この部分、唯さん以外のダンサー6人全員が後ろ向きになってステップを踏むという大胆なものですが、そう言えば、「ショーウィンドウに映る」姿は、前後が逆になるわけですね。それにしても、「また少し背が伸びたようですね」と、子どもの成長を喜ぶ母親目線の歌詞の後、「私を置いて大人になるのは ルール違反で逮捕しちゃうぞ」という歌詞のなんと素晴らしいことか!いつか巣立ってしまう日の寂しさを予感させながら、今の幸せを歌うこの歌詞の最大のポイントで、唯さんの歌唱力が最大限に発揮されているとい思います。
♪ショーウィンドウに映るキミ
「思い出いっぱい作りましょう」(2回目)
この歌詞の中に、二度登場する「思い出いっぱい作りましょう」という歌詞。二度目にこの歌詞が現れる場面。ダンスメンバー6人のうち、唯さんに近い位置の柳井萌花さん(画面右)と村岡桃香さん(画面左)の二人がお手玉のパフォーマンスを見せますが、この二人のうち、村岡桃香さんは、8/24の公演では出演しておらず、その日は、全体のフォーメーションを微修正して、柳井萌花さんが、唯さんの真うしろでお手玉のパフォーマンスを見せます。そして、8/24の公演では、7/20の公演の1回目のこの歌詞の登場場面で演じられていた唯さんも加わるこの振りが、ここで、お手玉を披露する柳井萌花さん以外の4人のダンスメンバーと、中央で歌う唯さんの5人で演じられます。そして、その後、歌のラストに近づいたところで、7/20の公演で、唯さんが、またしても、7/13の公演で見せなかった演技を見せてくれます。
♪思い出
♪いっぱい
「キミと私の二人の夏が」
この歌詞の中の母親は、冒頭から、かなり若く、おしゃれなイメージで描かれていますが、ラストに近づいたとき、歌詞の中の母親は、子どもに「キミと私の二人の夏が」という言葉を使います。これは、この親子の家庭に父親がいないことをうかがわせる歌詞ですが、まるで、子どもを恋人のようにひたすら愛する母性愛が歌われるこの歌詞に合わせて、7/20の公演で、唯さんは、7/13の公演では見せなかった演技を見せてくれます。「キミ」で、右手人差し指を挙げ、「私」で、両手を胸に当て、「二人の夏」という歌詞に合わせて、右手の二本の指で「二人」を表現します。この一連の演技のうち、「キミ」の部分の演技は8/10には封印されますが、8/24には復活。「私」の部分の演技は、8/10でも8/24でも見せてくれます。そして、「二人の夏」の部分の演技は、8/10は同じで、8/24には、右手だけでなく、両手で演技して見せます。結果的に、4つの公演の中に、同じ演技のものは全くないのです。一期一会の演技を唯さんが意識していたかどうかはわかりませんが、少なくとも、結果はそうなっています。
♪夏が来ました 夏が来ました
♪キミと
♪私の
♪二人の夏が
♪二人の夏が
「二人は8月のメリーゴーランド」
歌のラスト、「二人は8月のメリーゴーランド」という歌詞に合わせて、前半の「キミのまわりを まるで8月のメリーゴーランド」のところと同じように、6人(8/24は5人)のダンスメンバーが中央で歌う唯さんを囲んで輪を作り、花やしきのメリーゴーランドと同じ半時計まわりに回ります。そして、最初に内側を向いて輪を作っ後、続いて、外側を向いて輪を作っての回転も見せてくれます。そして、ラストシーン。全員が、笑顔で、バレエ「コッペリア」や「くるみ割り人形」に登場する人形たちを思わせる可愛らしいポーズをとりますが、スタート時とは左右が入れ替わっていて、画面左から、小坂衣純さん、大橋妃菜さん、村岡桃香さん、木村唯さん、柳井萌花さん、酒井美紅さん、塩田怜里さん。ただし、村岡桃香さんがお休みの8/24は、柳井萌花さんが、木村唯さんの後ろにシフト、さらに、この日は、7月のステージで両サイドのポジションだった小坂衣純さんと塩田怜里さんのラストポジションが、前方中央寄りにシフトし、大橋妃菜さんと酒井美紅さんがサイドにシフトして、5人が唯さんを囲むようなフォーメーションになっています。
♪二人は8月のメリーゴーランド
内側向きの後は外側を向いての輪で回転
「8月のメリーゴーランド」のラストシーン
左から小坂衣純さん、大橋妃菜さん、村岡桃香さん、木村唯さん、柳井萌花さん、酒井美紅さん、塩田怜里さん
「8月のメリーゴーランド」(8/24)のラストシーン
左から大橋妃菜さん、小坂衣純さん、柳井萌花さん(後方)と木村唯さん、塩田怜里さん、酒井美紅さん
歌詞について
すでに記したとおり、いつか巣立ってしまう日の寂しさを予感させながら、子どもの成長を喜ぶ母親目線の母性愛と幸福感を歌う歌詞。そして、母親は、冒頭から、かなり若く、おしゃれなイメージで描かれ、この親子の家庭に父親がいないことをうかがわせる表現もありますが、僕には、この歌詞に描かれている親子のシーンは、作詞者の想像する西暦2000年の7月下旬か8月上旬ごろ、描かれている子どもは、まもなく3歳になる女の子なのではないかとも思えます。そして、母親が若いイメージで描かれていることが、女の子に、やがて新しいお父さんができることを暗示しているようにも思えます。お母さんの愛情を一身に受けて育った少女は、花やしきのアイドルとなり、病気と闘いながらも、再び、花やしきのステージに戻ってきて、お母さんからもらった愛情を、感謝を込めて生き生きと歌う。これが、作詞者が考えたストーリーなのではないかと想像してしまいます。2015年に唯さんが亡くなった後、関係者への取材を重ねて書かれて2017年10月に出版された芳垣文子さんによる唯さんの伝記本「生きて、もっと歌いたい」には、唯さんのお母さんが、唯さんが1歳のときに離婚していること、唯さんは、3歳のときから新しいお父さん(唯さんは「父ちゃん」と呼んでいたとのこと)と3人で暮らしていたことが記されています。そして、「8月のメリーゴーランド」の作詞者の織音(おりおん)さんは、花やしき社長の弘田昭彦さんのペンネーム。唯さんの誕生日は8月13日です。だから、この歌は「8月のメリーゴーランド」なのだ、というのは、少し、考えすぎでしょうか。しかし、右足の切断手術にもかかわらず、がんが全身に転移してしまったことを、本人も、周囲の大人たちも知っていた2014年の春から夏にかけて、義足で立ち上がるためのリハビリを始め、とうとう、短時間なら立ち上がって歌えるようになった唯さんに、夏、新曲「8月のメリーゴーランド」を一人で全曲歌うステージが用意され、花やしきの音楽制作を担当していた作曲者の蓮沼健介さんも、ダンスの振付、指導を担当していた足立美幸さんも、歌劇団のダンスメンバーも、全員が全力を挙げて、最高のパフォーマンスでステージを作っているのは、残されたライブ映像に記録されている通りです。「私を置いて大人になるのは ルール違反で逮捕しちゃうぞ」という歌詞のすばらしさについては、すでに書きましたが、「私を置いて大人になる」というのは、直接的には自立して巣立つという意味ですが、別の世界に旅立つという意味でもあり、そこに隠された悲しみの予感が、この歌詞を決定的に感動的なものにしているのだと思います。
もうひとつの名曲『空へ』について
「8月のメリーゴーランド」と同じ時期に、花やしき少女歌劇団のもうひとつの名曲「空へ」が登場します。「8月のメリーゴーランド」が仲間たちに囲まれた唯さんが一人で歌う曲であるのに対して、少し先に披露された「空へ」は、義足で立ち上がった唯さんを中心にして、メンバー全員で歌う歌です。立ち上がって仲間たち(大橋妃菜さん、柳井萌花さん)と手をつないで唯さんが仲間たちと一緒にこの歌を歌ったのは2014年6月29日ですが、翌週には、唯さんは、手を離して、仲間たちと一緒に、両手で手話の振りを演じながら歌っています。この曲は、MCで「花やしきの花たちの歌」と紹介されますが、この「花やしきの花」というのは、花やしき少女歌劇団の少女たちのことなのだろうと思いますが、とりわけ、その輪の中心にいる木村唯さんのことなのでないかと思います。。花たちに「ありがとう」という歌詞が繰り返されるこの曲は、ハ長調で始まりますが、少し長めの間奏の後、ホ短調に転調し、寂しさを感じさせる曲調に変化します。そこでは、「その歌声 宝物だよ 笑顔の涙 忘れない」と歌われ、その後、曲は、再び転調してハ長調の明るい曲調に戻るのです。14年6月29日の映像を見ると、この日は、唯さんがMCを担当し、唯さんの左手を握っている柳井萌花さんは、マイクをつけずに歌っています。ここでの萌花さんの最大の役割は、ステージで義足で立ち上がって歌う唯さんのサポートなのでしょう。場合によっては、声を出して仲間に合図を送る司令塔の役割も想定されていたように思えます。これは、13年6月に、唯さんが右足の切断手術の前に一時復帰して、初めて椅子に座ってステージに登場したときに、サポート役の小坂衣純さんがマイクをつけずに唯さんの隣に座って歌っていた映像を思い起こさせます。「空へ」の前奏と間奏では、唯さんを中心に少女たちが作る花がゆっくりと開花していき、開いた「花」の中から唯さんが現れます。「8月のメリーゴーランド」のダンサーが大きな動きを見せていたのと対照的に、唯さんと一緒に全員が演技するこの曲の振りが手話であるということにも注目です。手話を採用するというアイデアには、ハンディを乗り越えてがんばるメンバーへのエールという意味もあるのかもしれないと思うこともあります。
この14年6月29日の動画は、昨年8/12のツイート
https://twitter.com/masahirokitamra/status/896282019730120704
で紹介していますが、YouTubeのContarex tokyoチャンネルの動画です。14年6月29日に唯さんが義足で立ち上がって「空へ」を歌ったことは、翌月の「8月のメリーゴーランド」の名演にもつながったように思われてなりません。
唯さんは、2015年10月14日に亡くなってしまいましたが、その後、「空へ」での花の開花を現す演出もなくなり、ヘッドセットからハンドマイクに変わって、少人数で歌われるようになってからも、原典版の手話の振りは受け継がれていきます。2017年3月の小坂衣純さんの卒業公演は、会場の花やしき座で見ましたが、その公演の最後にこの曲が歌われたときには、曲の最後、ボーカルを後輩のメンバーにまかせた小坂衣純さん、柳井萌花さんら4人が、目を閉じ、黙とうするような姿勢をとってからゆっくりと、空へ向かって顔をあげるという演出が実行され、当時、別の曲のボーカルを担当していた大橋妃菜さんも、この曲でマイクを持たずに舞台右手に登場し、両手での手話の演技を見せてくれました。
2017年2月に、この曲のメインボーカルを担当した柳井萌花さんは、重圧からか、曲の終盤、上手く声が出なくなってしまうというハプニングがあり、そのときの映像もネットで公開されていますが、2018年4月に再びこの曲のメインボーカルを担当した萌花さんは、最後までしっかりと歌いきり、現在、花やしき少女歌劇団の中心メンバーとして活動を続けています。
16年10月8日の朝日新聞の記事には、15年10月に唯さんが亡くなった直後のことが、次のように記されています。「訃報は、歌劇団の仲間に伝えられた。柳井萌花さんは、記憶がなくなるくらい泣いた。翌日、同じ中学校に通う村岡桃香さんと抱き合った。(中略)告別式の日。歌劇団の少女たちはひつぎを囲んで、歌劇団の代表曲『空へ』を、振りの手話をつけて歌い、唯さんを送り出した」(朝日新聞16年10月8日記事より)
木村唯さんを中心に少女たちが作る花がゆっくりと開いていく間奏シーン
♪その歌声
♪宝物だよ
♪笑顔の
♪涙
♪忘れない
♪空へ 空へと伸びる
(中央で手を結ぶ3人は、画面左から大橋妃菜さん、木村唯さん、柳井萌花さん)
長く花やしき少女歌劇団で振付、ダンス指導を担当され、17年11月に歌劇団を離れられた足立美幸さんは、17年12月11日のインスタグラムへの投稿
https://www.instagram.com/p/BchvOIaFed5/
で、「『花やしき少女歌劇団』を語る上で欠かせない唯の存在、私が担当し始めた頃から切磋琢磨し共にステージを作り上げた大切な生徒であり仲間。たくさんの事に気付かせてくれ教えてくれた。三回忌を迎えた今も、唯がこの場にいない事は本当に悔しい」と書かれています。
14年夏の「8月のメリーゴーランド」の7人の出演メンバーのうち、現在、ただ一人、歌劇団に残っている柳井萌花さんは、17年5月のツイート
https://twitter.com/MoekaYanai/status/863548491443748864
で、「今日唯ちゃんのお下がり着てる 自分から唯ちゃんの匂いがする とてつもなく嬉しい 今日のステージも頑張れる気がする」と書いています。
〔関連ツイート〕
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1007061703584931840
https://twitter.com/masahirokitamra/status/994871148855820289
https://twitter.com/masahirokitamra/status/831449748934496257
〔HP内の関連ページ〕
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/merrygoround-l.htm
花やしきの花壇(2017.8.20撮影)
花やしきのメリーゴーランド(2017.8.20撮影)
現在の花やしき少女歌劇団のメンバーの一部(18.3.18、終演後、花やしき通りで撮影)
左から百々香さん、カレンさん、萌花さん、咲彩(さあや)さん、結花さん
https://youtu.be/KZdaKNFqk-s
https://youtu.be/KZdaKNFqk-s
*「花の少女」(北村正裕作詞・作曲)は、花やしき少女歌劇団で活躍した木村唯さんへのオマージュとして作った曲です。
【追記】
ブログ記事掲載のお知らせツイートしました。
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1012593014756106240
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1012599984284422145
【18. 7.26追記】
「8月のメリーゴーランド」(織音作詞、蓮沼健介作曲)には、僕の上記のような解釈とは全く別の解釈をしている人も多数いるようです。
それについては、ツイッターの
https://twitter.com/_398_SAKUYA/status/1015986889042509829
から始まるスレッドと、
https://twitter.com/_105_TOKO/status/1017793961451089920
から始まるスレッドをご参照ください。
(18. 7.26追記)