北村正裕BLOG

童話作家&シンガーソングライター、北村正裕のブログです。 北村正裕ホームページ(北村正裕アート空間) http://masahirokitamura.art.coocan.jp/ もよろしく。 X(旧ツイッター)アカウントは「@masahirokitamra」です。

ウクライナ国立バレエ「ジゼル」(V.ヤレメンコ改訂振付、23年新制作)の画期的演出

1月5日、東京文化会館で、ウクライナ国立バレエの2023年新制作の「ジゼル」(ヴィクトル・ヤレメンコ改訂振付、2023年新制作)の公演を見ました。
一年前の日本公演を見逃していたため、自分にとっては、今回、貴重な観劇機会になりました。
物語の結末も変わってしまう、すごい演出でしたが、通常版よりむしろ納得できるようなものでした。
ラストでアルブレヒトも死に、来世でジゼルと結ばれるという演出です。
そのラストだけでなく、随所に工夫がされている演出だったので、いくつか、気付いた点を書いておきます。

まず、第1幕。
花占いの場面。アルブレヒトがあらかじめ花びらを数えて1枚抜き取るという演出が多いところですが、今回の演出では、アルブレヒトは細工をせず、花を放り投げて、占いを否定するかのような演出になっていました(占いには頼らない)。
そして、ジゼルの母が、ジゼルに「踊ってばかりいると、死んでウィリになって踊り続けることになる」と言って、踊りを止める場面、突然、暗転し、第2幕を思わせる暗めの照明に照らされた前景部分に本当にウィリの姿が現れるという幻想的な演出になっていました(第2幕の予告のよう)。
アルブレヒトの婚約者のバチルドと彼女の父親等が狩りの途中にジゼルと出会った後、通常版で原台本通りにジゼルの家で休憩するところは、今回の演出ではジゼルの家にはいらず、舞台左手に退場して、家の近くを散策するかのような演出になっていました(ジゼルと母親によるもてなしの大幅削減)。
アルブレヒトの正体を知ってショックを受けたジゼルの「狂乱の場」では、通常、ジゼルの髪がほどけて「狂乱」の場面らしさを示すという演出になっていますが、今回の演出ではジゼルの髪がほどけるとこはなく、ショックは受けても必ずしも「狂乱」という感じではなく、過去のアルブレヒトとのシーンを回想する演技をしっかりと演じていました。
第2幕では、冒頭、ジゼルの墓の前にジゼルの母親の姿を出していました(第1幕ラストで悲しんだ母が第2幕にも登場)。
ジゼルがアルブレヒトをかばって彼が墓の十字架から離れないようにする場面、通常、ウィリの女王、ミルタが、それを阻止しようとしてふるった杖が折れるシーン、今回の演出では、ウィリは杖を使っていませんでした(杖の魔法には頼らない)。
そして、いよいよ、ラストシーン。
ジゼルの姿が消えた後、アルブレヒトがジゼルの墓の前で倒れます。
すると、アルブレヒトの婚約者、バチルドが登場して、倒れているアルブレヒトを見つけて悲しむ姿でアルブレヒトが死んでしまったことがわかります。
バチルドの登場シーンは、原台本にはあるものの、通常、カットされる場面。そして、アルブレヒトの死を示す場面(バチルドが悲しむ場面)は、原台本にさえないもので、今回の演出の最大のポイントと言ってよいでしょう。
ここで幕が降りるのですが、これで終わりではなく、静かな音楽が続き、再び幕が上がり、現れたのは、来世で結ばれるジゼルとアルブレヒト。ここで、通常版のラストの音楽、つまり、ジゼルの消滅の場面の音楽が奏でられながら本当の幕となります。

もともと、「ジゼル」の原台本の物語というのは、釈然としないものです。アルブレヒトは、貴族の身分を隠して、村の娘、ジゼルと交際していて、彼の正体を知ったジゼルがショックを受けて死んでしまった後、ジゼルの墓参りにやって来るものの、ラストでは、彼を捜しに来た彼の婚約者、バチルドに手を差しのべるというものです。
「この裏切者!」と、ジゼルに代わって言ってやりたいような物語です。
そんな裏切り者をも、裏切られたことを知って死んでしまった後も、ウィリという幽霊のような存在になってからも、彼の命を護ろうとするジゼルは、多くのファンに人気があるようですが、本当にアルブレヒトを愛しているなら、彼を殺してでも来世で結ばれることを望むのが自然なのでは……などと、いつも思っていました。
とは言っても、ジゼルがアルブレヒトを殺そうとしたのでは、物語になりませんね。
そして、今回の演出では、ジゼルは、通常版と同様、アルブレヒトの命を護ろうとするものの、力及ばず、アルブレヒトは死に、その結果、二人は来世で結ばれるというもの。
この演出によって、ジゼルの誘惑の舞の場面のビオラソロによる美しい音楽など、従来の名場面は通常版同様に楽しめ、その上で、ラストも、違和感なく納得できるというわけで、驚きましたが、見てしまうと、これまで、こういう演出がなかったことが不思議になるほどでした。
もともと、「ジゼル」は、原台本、原曲をかなり改変して、ラストのバチルドの登場場面を削除するなどし、音楽面でも、アダンの曲に、ブルグミュラーの曲(村娘の踊り)、ミンクスの曲とされる(第1幕のジゼルのソロ)を挿入したりして人気作になったものなので、それにさらに改変を加えても、あまり抵抗は感じません。原曲、原台本が完璧なものなら改変は許されないと感じるでしょうが、「ジゼル」の場合は、そうではないので、いままで、今回のような大胆な演出がなかったことが、むしろ意外なくらいです。
例えば、チャイコフスキー作曲による『くるみ割り人形』のような、ある意味、完璧な音楽によって完成している感のある作品の場合は、その音楽的改変は残念な結果を生むことが多いでしょうが、『ジゼル』は、パリでの初演時からアダンの曲にブルグミュラーの曲が挿入されていて、その後も改訂が重ねられ、特に、サンクトペテルブルクのマリインスキイ劇場でのプティパによる改訂版によって、パリでの上演が途絶えてしまった後も生き続けて今日に至っているといった事情もある作品なので、さらなる改訂にもあまり抵抗を感じません。
今回の演出の登場で、今後、ラストで、アルブレヒトが倒れ伏して幕となるような演出が登場すれば、観客は、自然に、来世での結婚を想像できるようになるでしょうし、そういう意味でも、今回の演出の意義は大きいように思いました。ただ、一方で、ラストを短くカットして、ある意味、曖昧な結末にした演出も、シンプルさゆえに捨てがたいように思います。
もちろん、コラ^リとペローの振付でパリで初演されたバージョンをサンクトペテルブルクのマリインスキイ劇場のプティパが改訂し、一度は上演が途絶えていたパリにも里帰りした歴史的なバージョンは貴重で、それがあっての改訂版ですが、今回のような大胆なバージョンの登場は『ジゼル』の上演史に大きな足跡を残すものだと言ってもよいように思いました。モダンバレエなら色々あるでしょうが、あくまでもクラシックのスタイルでの上演となると、『ジゼル』の場合、今回のような大胆な演出を見たことがなかったので、自分には、とても画期的な演出と感jじられました。

古典の改変というと、例えば、滅びの美しさが魅力的だった『白鳥の湖』が旧ソ連でハッピーエンドに改変されてしまった例があり、悲劇の美しさが台無しになってしまったと感じるのですが、今回の『ジゼル』の場合はかなり違うと思います。というのは、メッセレルなどによる『白鳥の湖』のハッピーエンド演出は、ジークフリートが剣でロットバルトを殺害するというものであったのに対して、今回の『ジゼル』の演出では、ジゼルはアルブレヒトの命を護ろうとしたものの果たせずに、その結果が幸福なラストシーンにつながっているという点を見逃せないと思います。努力の結果の幸福などは興覚めなお説教のようなものに見えてしまいますが、今回の演出の、幸福が努力と無関係であるという点、さらには、それが死によってもたらされているという点など、これこそ芸術、と感じるものです。現実的なお説教などとは対極にあるゆえ、感動的なのではないかと感じました。もちろん、ミルタをはじめとするウィリたちとの攻防は何だったのだ、といったツッコミがはいりそうではあるし、ラストで、一度、幕を下ろして再び上げるというやり方が音楽の流れを止めているという点(弦の長いトレモロで対応していましたが)などの問題はあると思います。

今回、1月5日の公演は、主役の菅井円加(ハンブルクバレエプリンシパル、ゲスト出演)をはじめダンサーも好演だったし、演奏(ウクライナ国立歌劇場管弦楽団)も、ミコラ・ジャジーラの指揮も、伴奏の域に留まらない自己主張のある音を聴かせてくれてよかったと思います。

なお、「ジゼル」の原曲や原台本については、福田一雄著『バレエの情景』(1982年、音楽之友社刊)に詳しい解説があります。

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〔5日、観劇当日のX投稿〕
https://x.com/masahirokitamra/status/1875890794361708838

〔2020年2月のパリ・オペラ座バレエ日本公演についての20年3月7日のブログ記事〕
https://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52466474.html
(今回もジゼルの宙乗りのない演出でしたが20年3月7日のブログ記事にその意義についての記述があります)

〔北村正裕ホームページ紹介サイト〕
https://masahirokitamura33.wixsite.com/masahirokitamura

2024.12.7ライブ映像公開


2024年12月7日夜のIwoo NOGATAでのライブ記録映像のうち、4曲分の映像をYouTubeの@北村正裕チャンネル
https://www.youtube.com/@北村正裕
で公開しました。

「恋をあげよう」(北村正裕作詞・作曲・歌)
https://youtu.be/sAqD40G6X4c
https://youtu.be/sAqD40G6X4c

「りんごの夢」(北村正裕作詞・作曲・歌)
https://youtu.be/BORTX46y3pY
https://youtu.be/BORTX46y3pY

「レイナ」(北村正裕作詞・作曲・歌)
https://youtu.be/ktJ5KYH_TW4
https://youtu.be/ktJ5KYH_TW4

「遠き夢」(短縮版、北村正裕作詞・作曲・歌)
https://youtu.be/0msRex-T9g8
https://youtu.be/0msRex-T9g8

「りんごの夢」は、今回のライブで初披露の新曲。また、「遠き夢」は、24年7月21日のライブで初披露し、その時のライブ映像はすでに公開していますが、演奏時間が8分と長かったため、今枚の12月7日のライブでは短縮版を初公開しました。この短縮版で、少しだけ短くなりましたが、それでも、まだ、7分近くあります。

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〔北村正裕ホームページ(音楽情報用)〕
http://masahirokitamura.art.coocan.jp/

〔ライブ情報ページ〕
http://masahirokitamura.art.coocan.jp/live-s.html

〔北村正裕ホームページ紹介サイト〕
https://masahirokitamura33.wixsite.com/masahirokitamura

〔YouTube北村正裕音楽チャンネル〕
https://www.youtube.com/@北村正裕

〔北村正裕X(旧ツイッター)〕
https://x.com/masahirokitamra



2024.7.21ライブ映像公開

2024年7月21日のIwoo NOGATAでのライブ「弾き語りmusic」のライブ記録映像のうち、5曲分の映像をYouTubeで公開しました。

「遠き夢」(北村正裕作詞・作曲・歌)
https://youtu.be/VnKV08Ry0Qo
https://youtu.be/VnKV08Ry0Qo

「君が教えてくれた道」(北村正裕作詞・作曲・歌)
https://youtu.be/1vieMC9XfEo
https://youtu.be/1vieMC9XfEo

「途切れた地図の街」(北村正裕作詞・作曲・歌)
https://youtu.be/vQjfojeEEe0
https://youtu.be/vQjfojeEEe0

「また明日」(北村正裕作詞・作曲・歌)
https://youtu.be/dZVW3cfSSLk
https://youtu.be/dZVW3cfSSLk

「二人乗りの気球」(北村正裕作詞・作曲・歌)
https://youtu.be/_Vxz3U-96rM
https://youtu.be/_Vxz3U-96rM


今回、ライブ映像公開した5曲のうち、『遠き夢』はライブハウス初公開(昔作った曲の歌詞を一新しメロディーも修正)、『途切れた地図の街』と『また明日』は映像公開は初めて。『また明日』は、すでに何度も歌って音源も公開していた『また会おうね』の原曲にあたるもので、『また会おうね』のほうはこれの改作バージョンです。一方、『君が教えてくれた道』と『二人乗りの気球』は、過去にもライブ映像公開していますが、『君が教えてくれた道』については、以前公開したとき(2018年)と微妙に歌い方が変わっています。「まぶしすぎて」というフレーズが3回で出きますが、今回、3度目だけ、このフレーズの中の「し」の音を、半音上げて歌っています。最初の2回は、「ぶ」「し」「す」の3音が同じ高さで続きますが、3回目だけ、「し」を半音上げて歌っています。こんな細かいことに気づく人はほとんどいないだろうと思いますが、この歌い方は、以前とは違う点です。

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今回、初披露の『遠き夢』のライブ音源の一部を使ったライブPR動画50秒バージョンも公開しました(YouTubeショート動画)。
https://www.youtube.com/shorts/nmnzeVxaYKU
https://www.youtube.com/shorts/nmnzeVxaYKU


〔北村正裕ホームページ(音楽情報用)〕
http://masahirokitamura.art.coocan.jp/

〔ライブ情報ページ〕
http://masahirokitamura.art.coocan.jp/live-s.html

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『シン・エヴァンゲリオン劇場版』第3村モデル、天浜線天竜二俣駅、夜の転車台、会議室も見学

2024年2月17日夜、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』第3村モデル、天竜浜名湖鉄道(天浜線)天竜二俣駅、転車台、夜の見学ツアーに参加し、昼のツアーでは見ることができない運転区2F会議室(第3村の教室のモデル)も見学できました(転車台と鉄道歴史館は昼夜共通の見学コース)。夜の見学ツアーの後、天竜二俣から掛川に移動して掛川駅前のホテルに宿泊し、翌朝、再び、天竜二俣に向かい、18日昼(午前)の転車台&鉄道歴史館見学ツアーにも参加しました。

天竜浜名湖鉄道のフェイスブックページの投稿
https://www.facebook.com/tenhama/posts/pfbid0q84Vqxb5FwzC4pScP7GHq7iTKtX3uiQFG9B8ozEru3Xz3tFZnQAmxT9XP8CEe1bPl
に、今回の夜の転車台見学ツアーで「運転区2Fも見学できます」という情報がありました。

『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生-源流「エヴァンゲリオン」「まどかマギカ」と虚構と現実の芸術論』(北村正裕著、2023年、彩流社刊)の第四章(虚構の中の創造主-「エヴァンゲリオン」と円環の物語)では、
「第3村での出会いは、新劇場版四部作の中の最も印象的な場面であり、新劇場版がこのシーンを描くために作られたものなのだと感じられるほど美しい世界が描かれる」
(p.185)
とも書いた第3村。
夜の見学ツアーに参加した日は、見学後、天竜二俣から掛川に移動して掛川駅前のホテルに一泊し、翌朝、再び、天竜二俣に向かって、今度は、昼の見学ツアーにも参加しました。

夜の転車台の動画はYoiuTubeに投稿しました。
https://youtu.be/H2YzQlxg03M
https://youtu.be/H2YzQlxg03M

『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生-源流「エヴァンゲリオン」「まどかマギカ」と虚構と現実の芸術論』(北村正裕著、2023年、彩流社刊)の第四章(虚構の中の創造主-「エヴァンゲリオン」と円環の物語)は、『かがみの孤城』との比較という観点から『エヴァンゲリオン』をとりあげ、とくに『シン・エヴァンゲリオン劇場版』について論じていますが、この章は、『かがみの孤城』未読でも読めるようになっています。ただし、この本の第1章~第3章は、『かがみの孤城』未読かつ映画未鑑賞の人が読んでしまうと『かがみの孤城』のネタバレになってしまうので、これらの章は、『かがみの孤城』原作読了または映画鑑賞後にお読みいただくようお願いします。『かがみの孤城』は初読時のラストでの驚きの体験が命なので、未読かつ映画未視聴の方はネタバレ情報に触れないようにご注意ください。

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〔ホームページの中のエヴァンゲリオンコーナー〕
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/eva.htm

〔『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』出版情報(彩流社)〕
https://www.sairyusha.co.jp/book/b10025211.html

〔北村正裕ホームページ紹介サイト〕
https://masahirokitamura33.wixsite.com/masahirokitamura

〔北村正裕X(旧ツイッター)〕
https://twitter.com/masahirokitamra


【追記】
X(旧ツイッター)に投稿しました。
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1759531503321784328

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【25. 4. 3追記】
25年4月1日の天竜浜名湖鉄道公式X投稿によると、 夜の転車台ツアーが「毎月第2土曜日に定期開催決定」とのことです。
https://x.com/tenhamasen/status/1907016470133178816
また、3月31日の投稿には、天竜二俣駅上空からの写真が載っていますが、この写真が映画のあのカット(映画の17分45秒のところの映像)の土台のように見えます。
https://x.com/tenhamasen/status/1906559732112052584
扇形庫の屋根に「CLINIC」と書いて、第3村の診療所に……。
(25. 4. 3追記)

【25. 5.15追記】
天竜浜名湖鉄道のイベントには、転車台&鉄道歴史館見学ツアーのほか、乗車体験ツアーもあり、どちらも、天竜浜名湖鉄道のウェブサイトに説明が載っています。
https://www.tenhama.co.jp/events/5018/
(25. 5.15追記)

【2025年8月25日追記】
北村正裕ホームページ(音楽情報用と執筆情報用)の統合にともない、
エヴァンゲリオンコーナーのページのURLが変更になりました。
新しいURLは
http://masahirokitamura.art.coocan.jp/eva.htm
です。
(25. 8.25追記)

【2026年1月10日追記】
現在、毎月第2土曜日開催の夜の転車台&鐡道歴史館見学ツアーの情報が、天竜浜名湖鐡道のページ
https://tenhama.co.jp/events/29609/
に掲載されています。
(26. 1.10追記)


阿部加奈子指揮、藤原歌劇団「ファウスト」公演

東京文化会館で、1月27日、28日、2日連続で、ダブルキャストによる藤原歌劇団「ファウスト」の公演を見てきました(演出=ダヴィデ・ガラッティーニ・ライモンディ、指揮=阿部加奈子、管弦楽=東京フィルハーモニー交響楽団)。
3つの動く仕切り板、ついたて、壁のようなディスプレイに様々な画像が映し出される仕組みで、他には大きな舞台装置はなく、簡素な演出。例えば、第3幕では、画像を映し出すついたてのような壁以外には、公園か駅のホームの水飲み場のような「聖水」と、花と宝石を置くための簡素なテーブルと小さな四角い椅子がある程度でした。
第1幕でメフィストフェレスがファウストにマルグリートの幻影を見せる場面では、マルグリートは登場せず、背景の壁に女性の顔(の一部)の画像が映し出されるという演出でした。このとき、ファウストは後ろを見ていないので、幻影は客席側に見えているというように考えるべきなのでしょう。
幻想のようなバレエが第1幕から登場、最初は、ファウストの机の下から妖怪のように登場し、合唱が聞こえてくる場面では、背景の壁の隙間から登場していました。
第3幕のファウストの「この清らかな住まい」の場面では、3つの壁のディスプレイに淡いグリーンと白の花が現れ、それが青に変化、そして、マルグリートの「宝石の歌」が始まると赤いバラに変わり、さらにチューリップなども現れるという具合に、場面ごとに、画像がどんどんと変化していました。
第4幕では、教会の場が街の場(兵士の合唱~決闘の場面)の後になっていました。この順番にすると、教会の場とその後のワルプルギスの場面のつながりがよくなる半面、その前のマルグリートの寝室の場の最後のマルグリートの「教会に行ってくる」という言葉と実際の教会の場面とが離れてしまうといった問題点もあり、この順番には、一長一短あると思います。
第5幕前半のワルプルギスの場面に挿入されたバレエ音楽は7曲中5曲。7曲あるバレエ音楽のうちの第5曲(トロイの踊りの曲)と第6曲(鏡の踊りの曲)は使用されませんでした(バレエ=NNIバレエアンサンブル、振付=伊藤範子)。
そのバレエ音楽の第2曲(アダージョ)では、マルグリートとファウストを表しているような男女2人の踊りが展開し、舞台左手前にマルグリートが現れてそれを見ているという演出。マルグリートは第4曲(クレオパトラの音楽)が始まると、一旦、退き、その第4曲では、第2曲でファウストとマルグリートを演じていた二人のダンサーが、今度は、剣を持って決闘。これは、ファウストとヴァランタンを表しているようで、今度は、舞台左手前にヴァランタンが現れてこの踊りを見るという演出、そして、舞台右手前では、ファウストとメフィストフェレス。第4曲の最後には、また、マルグリートが現れて、そのままバレエシーンの最後まで舞台に残り、ファウストが彼女の幻影を見る場面へつなげていました。
ラストの牢獄の場のラストでは、舞台右奥で合唱団員たちがマルグリートを囲んでの救済の合唱、ファウストとメフィストフェレスは左後方に引き下がっていました。
27日は、ファウスト役の村上敏明さんが不調でボロボロの状態でしたが、28日は、一転、ファウスト役の澤崎一了さん、マルグリート役の迫田美帆さん等が美声の競演で、素晴らしい舞台でした。
阿部加奈子さんの指揮は明解かつエネルギッシュ。例えば、第2幕のワルツが始まる部分などは、速めのテンポで軽快に演奏し、シーベルやマルグリートの登場場面ではテンポを落とし、ワルツ冒頭のメロディーの再登場とともに再びテンポアップという自然な緩急の変化を強調していました。そして、オーケストラに対してだけでなく、舞台上の歌手にも左手を高く上げて合図を送っていました。特に、歌手の歌い出しのタイミングでは、必ず、合図を出すという徹底ぶり。実に親切なオペラ指揮者だと思いました。プロンプターの役割までこなしているようでしたが、こうした指揮者の合図は歌手にはありがたかったかもしれません。振り方も大きく、さらに、全身でエネルギッシュに振り続けるので、演奏者にも歌手にもわかりやすいだろうと思います。実際、明解な音が鳴っていたと思います。こういう振り方は、よほどの体力がないとできないだろうと思います。そして、エネルギッシュと言っても、決して、大きい音量で押しまくるというわけではなく、例えば、第3幕後半のファウストとマルグリートの2重唱での「永遠に!」というハーモニーの部分など、実に繊細に微弱音を聴かせていました。
ラスト、牢獄の場の終盤では、メフィストフェレスがファウストを急がせる場面で速くなったテンポを、最後の最後で落として演奏しようという姿勢が見られ、27日の公演では、最後はかなりじっくりと聴かせるテンポになっていたのに対して、28日の公演では、27日の公演のときほどテンポが落ちなかったと思いますが、これは、28日の歌手陣が勢いづいていて、テンポを落とせなかったためではないかと感じました。というのは、指揮者がテンポを落とすはず、と思った瞬間、テンポの落ちない歌手の声と指揮者の指示通りにテンポを落とし始めたオーケストラの音が少しずれたように感じたのです。このまま指揮者が予定通りにさらにテンポを落とすと、歌手とのズレが修正できないかもしれないと感じた瞬間、指揮者がテンポを落とすのを止めて歌手の勢いに乗ることを選択したように感じました。これは、あくまでも、僕の印象ですが、前日の演奏が頭に残っていたので、そのように感じました。エネルギッシュであると同時に、指示が明解で冷静という印象なので、このようなとっさの判断もできそうな指揮者だというように聴いていて感じました。こんな完璧な仕事、いつでもできるというものでもないのではないかとも思ってしまうほど、見事な指揮ぶりだったと思います。今回、ほとんど指揮者の真後ろとも言えそうな座席が確保できたので、熱演を続ける指揮者ごしに歌手を見ていましたが、指揮者の後ろ姿を見ているだけで観客の自分が気合がはいってしまうほどだったので、演奏者と歌手は気合がはいって当然でしょう。すごい舞台を目撃してしまいました。

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〔1月28日、Xへの投稿〕
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1751583328472633375

〔ホームページのバレエ・オペラコーナー〕
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/swanlake.htm

〔日本オペラ振興会、24年藤原歌劇団「ファウスト」公式サイト〕
https://www.jof.or.jp/performance/2401-faust-tokyo


【2025年8月21日追記】
北村正裕ホームページ(音楽情報用と執筆情報用)の統合にともない、
バレエ・オペラコーナーのURLが変更になりました。
新しいURLは
http://masahirokitamura.art.coocan.jp/swanlake.htm
です。
(25. 8.21追記)

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