10月1日、新国立劇場の「修道女アンジェリカ」(プッチーニ作曲、フォルツァーノ台本)と「子どもと魔法」(ラヴェル作曲、コレット台本)のオペラ2本立て上演を見たのを機に、昨年12月にNHKBSで放送された2022年ザルツブルク音楽祭の「修道女アンジェリカ」(クリストフ・ロイ演出、フランツ・ウェルザーメスト指揮、演奏はウィーン・フィル、アンジェリカ役はアスミク・グレゴリアン)の映像見返していたら、絶望に沈むアンジェリカへの修道女の台詞のところ、「長年の願いがようやくかないましたね」という不可解な字幕に気づきました(翻訳=森口いずみ、字幕=嶋田美樹)。対訳台本を入手して読んでみたら、とよしま洋さんの訳は「シスター、善良なシスター、聖母様は聞き届けられます、あなたは報われます」。原文には"sarete contenta"(満たされるでしょう)という未来形の字句がありました。放送の字幕は誤訳なのではないでしょうか?もちろん、この時点でのアンジェリカの願いは、天国で子どもに会うことだと思います。
対訳台本を入手したので、ラストの奇跡の場面のト書きも読んでみたところ、
「扉が開き、優しく、荘厳な聖母さまが現れる。彼女の前に白い衣装に包まれた金髪の子供が…」
昨年放送されたザルツブルク音楽祭の映像では聖母は登場しませんが子どもは登場してアンジェリカが抱擁する場面で幕となっていました。
一方、今月の新国立劇場での公演は聖母も子どもを登場しない演出でした。
パンフレットに「アンジェリカの死の瞬間に起こったのは、客席の私たちも共有できるような奇跡だったのでしょうか」という演出の粟国淳さんの文章が載っていますが、「それを見えるように表現するのが舞台芸術なのでは?」と反論したくなってしまいました。ザルツブルク音楽祭の映像では、子どもの登場場面が一番感動的で、これを生で見たかったので。
映像や配信音源等では、子どもの登場場面でのアンジェリカの「ああ!」という声も聴くことができますが、台本を見て、この声も台本に指示されていることがわかりました。配信音源を聴いていても、このラストのアンジェリカの「ああ!」という声を聴くと、彼女の死んだ子どもの登場が目に浮かぶようで、感動してしまいます。
今回の新国立劇場の公演で、この演目を初めて劇場で鑑賞できて、美しい音楽に感動しました。演奏もよかったと思います(沼尻竜典指揮、東京フィル、アンジェリカ役はキアーラ・イゾットン)。これまで、プッチーニのオペラというと「ラ・ボエーム」ばかり聴いていて、今年は、「ラ・ボエーム」ばかり、色々な演出、色々な指揮者、色々な歌手陣による舞台を、3月から7月にかけて5公演も見て、例えばパレルモ・マッシモ劇場日本公演のフランチェスコ・イヴァン・チャンパのゆったりしたテンポでじっくりと聴かせる指揮など(ミミ役のゲオルギューもよかった)に感動しましたが、「ラ・ボエーム」以外のプッチーニの作品も鑑賞できてよかったと思います。「ラ・ボエーム」などに比べると上演機会が少ない演目ですが、これも美しい作品だと感じました。

今回入手した「修道女アンジェリカ」対訳台本は訳=とよしま洋、発行=アラウ・マーニャ/イタリアオペラ出版です。

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