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4月26日、テアトロ・ジーリオ・ショウワで、藤原歌劇団による「ロメオとジュリエット」(グノー作曲)のセミステージ形式の公演を観劇。
松本重孝演出、園田隆一郎指揮、テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ。出演は、渡辺康(ロメオ)、光岡曉恵(ジュリエット)他。
全5幕のうち、第3幕の第1場と第2場の間に休憩をいれ、それ以外には休憩を挟まない上演で、第4幕に挿入されることのあるバレエシーンはなし(原作では第2幕の終盤に位置する修道士ロレンスの僧房でのロメオとジュリエットの結婚の場がグノーのオペラでは第3幕第1場)。

演奏も歌唱も上質でパフォーマンスはとてもよかったと思います。
ロメオ役の渡辺康さんとジュリエット役の光岡暁恵さんの二人が美声を披露、さらに、迫力も感じさせる好演だったと思います。ローラン(ロレンス)役の伊藤貴之さんは、昨年1月28日の「ファウスト」での悪魔メフィストフェレス役で活躍されていましたが、今回、そのメフィストとは全くタイプの異なるキャラクターの修道士ロレンス役でも存在感を見せてくれていました。

しかし、舞台上の歌手の位置には問題があったと思います。今回、オーケストラと合唱を後方に配置し、歌手が前方に出て、しかも、通常のオーケストラ・ピットの位置にまでステージを拡大し、その上での演技が中心になっていたため、3階席の中央寄りの座席からは、前の観客の身体の陰に隠れて演技の多くが見えないという残念な事態が発生してしまっていました。通常の公演なら、2階、3階の中央寄りの座席は、舞台全体を見渡しやすいため、結構よいポジションだと思うのですが、今回は、そこが、最前列を除いてほぼ全部が条件の悪い席になってしまうので、やはり、演技は通常の位置でやってもらったほうがよかっただろうと思いました。身体を左右に動かしながら、歌手の姿をちらちらと見るのがやっと、という状態だったので、その点が残念でした。この劇場の場合、3階最前列は前の柵が視覚的に邪魔になるという別の問題があり、通常なら、3階は後方座席のほうがむしろ良いと思うところなのですが、今回はその後方が悪条件でした。
オペラでのオーケストラは、やはり、オーケストラピットで演奏するのが、一番、無難なのではないでしょうか? どうしてもオーケストラを舞台に乗せたいという場合にも、歌手の位置の前後はあまり変えずに、オーケストラを、例えば、通常のピットの位置で高さだけあげて、歌手の位置も高さだけ高くするとか、オーケストラの中に歌手のスペースを作るなどして、どの座席からも歌手の演技が見えるようにしていただきたかったと思います。
そもそも、セミステージ形式は、オーケストラピットのないコンサート専用のホールでのオペラ上演をしたいという場合には有意義でしょうが、今回のテアトロ・ジーリオ・ショウワは、オーケストラピットもあり、オペラの本格上演が可能な劇場なので、セミステージ形式ではなく、通常のスタイルでの上演をやってほしかったというのが正直な感想です。舞台装置が簡素でも、空いたスペースに無理にオーケストラを乗せなくてもよいのではないでしょうか?
かつて、コンサート専用のオペラシティコンサートホールで上演されたセミステージ形式での「夕鶴」の舞台(ジャパン・アーツ制作)を見ましたが、そのときは、オーケストラが横向きに配置されて、指揮者が客席から見て左端に位置していて、視界をさえぎることもなく、その時は、1階席で見ていましたが、1階席でも2階席でも問題なさそうな配置になっていました。そして、そのときのプロダクションは、地方会場でも上演されるということだったので、そういうことならセミステージ形式も有意義でしょうが、今回は、会場が通常のオペラ公演可能な劇場だっただけに、通常のスタイルで見たかったなあと思いました。パフォーマンスの質が良かっただけに、演技の位置の問題で見づらくなってしまうのはもったいないと思いました。

ところで、グノーのオペラ「ロメオとジュリエット」は、昨年、NHK-BSで放送された23年6月のパリ・オペラ座の舞台映像(トマ・ジョリー演出、カルロ・リッツィ指揮)を何度も見て味わっていましたが、自分の場合、第2幕のラストの、ジュリエットを見送った後のロメオのソロの部分が気に入っています。夜風に乗せて愛のささやきと口づけを届けたいという気持ちを歌うロメオの静かなソロ。オーケストラが幕の冒頭の間奏曲と同じメ美しいメロディーを奏でるところ。今回の公演プログラムに掲載された解説では特に聴きどころとしてあげられてはいない部分ですが、驚くほど美しい場面だと感じます。このロメオのソロの冒頭部分は、オーケストラが奏でる幕冒頭の間奏曲のメロディーが主旋律で歌手の声が伴奏のようにも聞こえ、両者の調和がとても美しい場面だと思います。
そして、もう1か所、やはり気に入っているのは、第5幕の幕切れのオーケストラ。ロメオとジュリエットが息絶えた後の最後の音楽が、直前のジュリエットの「愛してる」という言葉につながって、まるで、あの世での二人の出発を奏でているようにも聞こえて感動的ですが、パリ・オペラ座のトマ・ジョリー演出版では、ジュリエットの「愛してる」という言葉が最後の言葉になっていることが、ラストの音楽を特別に感動的にしている要因のひとつだったかもしれません。毒が回ってきたときのロメオの「天国の門で会おう」「夢はあまりに美しかった」「愛は天上の炎のように墓にあっても燃え尽きぬ」といった言葉ともつながるように感じます。
原作と違って毒を飲んだロメオが息絶える前にジュリエットが目覚めるようになっているグノーのオペラ(台本はバルビエとカレ)では、ラストでの二重唱ももちろん大きなポイントですが、その後の、二人が息絶えた後のオーケストラが奏でる音楽は、さらに感動的だと思います。
今回の藤原歌劇団の公演では、ジュリエットの「愛してる」"je t'aime!"の後に、ロメオとジュリエットの二人の「神様、私たちをお許しください」"Seigneur, Seigneur, pardonnez-nous!"という言葉があるので、この「お許しください」という言葉がないバージョンが採用されていたパリ・オペラ座の舞台映像に慣れていた自分にとっては、すでに息絶えてしまったようなタイミングでの「神様、私たちをお許しください」という二人の言葉に、やや違和感を感じてしまいました。
2008年にNHKのBSで放送された2007年のメトロポリタン歌劇場公演の舞台映像(ヨーステン演出、ドミンゴ指揮)も「神様、許してください」という言葉のあるバージョンでしたし、手元にあるジャック・デラコート指揮、リセウ劇場ライブ盤CDでも同様なので、こちらのバージョンが通常のバージョンなのだろうと思いますが、昨年放送されたパリ・オペラ座の舞台映像を録画して繰り返し見て、それに馴れてしまっていたため、今回の通常バージョンの最後の言葉に少し違和感を感じてしまったのかもしれませんが。ラストの「許してください」という言葉がないバージョンの場合、その部分に生じる言葉の空白が、ラストのオーケストラのフレーズの印象を強める効果をもたらしているように感じます。
今回の藤原歌劇団のセミステージ公演観劇の後、通常バージョンの配信音源(ミシェル・プラッソン指揮、アラーニャ、ゲオルギュー出演)のラストシーンを聴いてみたところ、これもよいと思いました。しかし、ジュリエットの「愛してる」が最後の言葉になるバージョンも捨てがたく、ラストの言葉が異なるバージョンが誕生したいきさつなど気になります。公演プログラムの解説には、「歌劇《ロメオとジュリエット》は、作曲者グノーがたびたび改稿した結果、1867年のテアトル・リリックでの世界初演から1888年のパリ・オペラ座初披露まで、『4つのヴァージョン』が誕生した」という記述はありますが、ラストの「神様、お許しください」という言葉のないバージョンの存在についての記述は見当たりませんでした。


〔関連情報〕
藤原歌劇団「ロメオとジュリエット」公式ページ(日本オペラ振興会)
https://www.jof.or.jp/performance/2504-romeo_et_juliette

オペラ対訳プロジェクトの「ロメオとジュリエット」のページ
https://w.atwiki.jp/oper/pages/423.html

2005年ジャパン・アーツ制作「夕鶴」セミステージ公演の観劇レポート
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/yuzuru2005.htm

2024年藤原歌劇団「ファウスト」観劇記事
https://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52512674.html


【追記】
イタリア語のウェブサイトに2023年のパリ・オペラ座の舞台についての批評が載っています。
https://www.operalibera.net/wp/2023/06/26/romeo-et-juliette-parigi-opera-de-bastille/
https://operaeopera.com/2023/06/romeo-et-juliette-allopera-national-de-paris-bastille-recensione-natalia-di-bartolo/
2つのページに同じ批評文が載っていて、googleの翻訳を見ると、ラストの「許してくれ!」という言葉の削除については否定的な意見のようです。


〔北村正裕ホームページ紹介サイト〕
https://masahirokitamura33.wixsite.com/masahirokitamura

〔北村正裕X〕
https://x.com/masahirokitamra