この日の昼の公演では、主役のクララ/金平糖の精役に、今回が全幕作品主役デビューとなる東真帆が登場し、熱演を見せてくれました。
振付=ウィル・タケット
編曲=マーティン・イェーツ
指揮=マーティン・イェーツ
管弦楽=東京フィルハーモニー交響楽団
合唱=東京少年少女合唱隊
芸術監督=吉田都
出演=東真帆(クララ/金平糖の精)、奥村康祐(ドロッセルマイヤーの助手/くるみ割りの王子)、福岡雄大(ドロッセルマイヤー)/他
序曲に続き第1幕が始まると、第1曲のクリスマスツリーの曲の途中で合唱が曲のリズムに合わせるようにクリスマスキャロルを歌いだしたので驚きました。特に「くるみ割り人形」第一幕の場合、完璧な構成とも言えそうなチャイコフスキーの曲を味わうのが楽しみなので、ここのクリスマスキャロルは少々残念。また、第一幕で自分には目ざわりと感じたのはドロッセルマイヤーの助手の存在。クララとドロッセルマイヤーの助手が不意に互いの背中をぶつける「出会い」のシーンで、他のダンサー全員の動きを止めて二人の「出会い」を強調していたり、さらに決定的なのは、くるみ割りの王子とドロッセルマイヤーの助手を一人二役にしたりしているところですが、くるみ割りの王子をドロッセルマイヤーの助手のイメージに重ねようとする演出は、自分には邪魔な演出と感じました。魔法の世界は、現実から飛翔して自由であって欲しかったと思いました。
一方、第一幕の演出で良かったと思うのは、ドロッセルマイヤーのマジックショー。そして、クリスマスツリーが大きくなっていくシーンでのツリーへの点灯も、ドロッセルマイヤーの魔法で灯がどドロッセルマイヤーからクララの手を経てクリスマスツリーに飛び移るように見せていて、こうした灯の使い方が巧みで楽しめました。
ねずみ達とくるみ割り人形たちとの戦いでは、ねずみの親分は、今回の演出では「ねずみの女王」。そして、この役、今回は、序盤で「ダンス教師」として登場して子どもたちの「行進曲」などを取り仕切っていたのと同じ根岸佑衣。序盤では、この役、楽しいはずの子どもたちのダンスに介入して「邪魔だなあ」と感じていたのですが、ねずみのシーンでは、そのイメージをまとったねずみの女王がクララにスリッパで叩かれて倒されるという演出になっていました。このとき、クララはスリッパを投げるのではなく、今回は、それを手に持ってねずみの女王を叩いて倒していました。
雪のシーンは、雪の結晶の模様をそのまま使った舞台美術が、ここまでの美術に比べてぱっとしないと感じましたが、振付は地味ながら堅実。派手にならず、控え目で、かつ、舞い降る雪を表すようなダンサーの手の動きなど細かいところをおろそかにしない振付でした。ここの児童合唱シーンは全曲を通して一番美しいところで、このシーンの合唱を味わうのが、「くるみ割り人形」鑑賞の大きなポイントです。今回、東京少年少女合唱隊は、オーケストラピット左端の高い部分で歌っていて、少人数ながら比較的よく響く合唱を披露してくれました。細かい手の動きを重視しているように見える振付はここだけでなく、雪のシーンにはいる前のクララの振りにもすでに現れていたと思うし、クララ/金平糖役の東真帆がそれらをきっちりと演じていたのが良かったと思います。
第2幕が始まると、ドロッセルマイヤーがスプーンでこぐティーカップの船に乗って、クララと王子がお菓子の国に到着し、そこには、巨大なキャンディーの棒やわたあめ、ゼリーなどが飾られています。シェフパティシエとお菓子の国のマイスター等に迎えられ、王子によるクララの活躍などのマイムでの語りがある第11曲も終わり、お菓子のキャラクターによるディヴェルティスマンが始まるタイミングで、チョコレートの踊り(スペインの踊り)は削除され、ここで、耳慣れない曲が演奏されます。先日(14日)、「バレエチャンネル」のサイトに掲載されたウィル・タケットのインタビュー記事によれば、この曲は「イギリスの踊り」で、「(指揮者の)マーティン・イェーツが、チャイコフスキーが新たな踊りのために作っていた鉛筆書きのスケッチを見つけ、オーケストラ用に編曲してくれたのです」ということで、途中で序曲のメロディーが挿入されていました。そして、この曲でパティシエ達が踊るのですが、なぜ、原曲のチョコレートではだめなのか、自分にはわかりませんでした。
ここから、ようやくお菓子のキャラクター達の踊りが始まり、原曲のコーヒーの踊り(アラビアの踊り)の曲で、わたあめの踊り、紅茶の踊り(中国の踊り)の曲で、ゼリーの踊りが演じられます。上記のインタビュー記事には、「あの「中国の踊り」をそのまま踊ることは失礼だと思うし、私は中東でも仕事をしてきましたが、「アラビアの踊り」でダンサーたちがビキニスタイルの衣裳を着ているなんて絶対に通用しません」と、ありましたが、それは確かにそうだと思います。なので、今回の「わたあめ」「ゼリー」は有意義な試みだと思いました。「わたあめ」では、アラビア風の音楽に乗せて、ダンサーはわたあめに包まれたような衣装で踊り、「ゼリー」では、ゼリーカップを身にまとったダンサーも登場し、軽快さを持たせたがらも従来の「中国の踊り」のイメージは払拭されていたと感じました。この後、トレパークよりも先に葦笛の音楽が演奏され、これは「キャンディー」の踊りになっていました。振付的には、ここは葦笛が棒キャンディーに変わるだけで、葦笛がキャンディーの踊りになるのは珍しくないと思います。そして、この後、トレパークの音楽でポップコーンの踊り。そして、「花のワルツ」の音楽が「フォンダンローズ」。
「花のワルツ」の後、原曲では「花のワルツ」の前に置かれる「ジゴーニュおばさんと道化師たち」の音楽の演奏が始まりましたが、「ジゴーニュおばさん」も「道化師」も登場せず、この音楽をお菓子の国のキャラクターたちの踊りのフィナーレとして使っていて、これにより、グランパドゥドゥの後に置かれるはずの本来のフィナーレの出番を奪ってしまっていました。もともと、削除されることが多い「ジゴーニュおばさんと道化師たち」ですが、演奏するなら本来の使い方をして欲しかったと思います。
公演プログラムには、「『くるみ割り人形』のオリジナルの楽譜を見ると、チャイコフスキー自身が書き込んだ動きに関する多くの指示が記されており、私はこれらの劇作上の指針を数多く活用し、可能な限り原作の意図に近い構造を保つよう努めました」というウィル・タケットの文章が載っていますが、実際には、この「ジゴーニュおばさん」の曲の使い方など、残念ながら原曲の作曲意図に反する方向の改訂になってしまった部分の方が多いのではないかと思います。
この後の、金平糖の精となったクララと王子によるグランパドゥドゥは正統派。東真帆と奥村康祐のコンビがきっちりと踊ってくれました。今回のようにクララと金平糖の精を同じダンサーが演じるバージョンでは、この役を演じるダンサーは無邪気な子どもと気品ある女王の両方を演じなければならず重責ということになりますが、今回は、その両方を全幕作品初主演の東真帆が見事に演じていました。
グランパドゥドゥの後、アポテオーズの音楽に移る前に、魔法の時間の終わりを示すかのように鐘が鳴って第二幕冒頭の音楽が再び演奏されました。この音楽は、原曲の「フィナーレのワルツとアポテオーズ」にも組み込まれていますが、今回は、それより長く演奏され、王子はクララを連れて、再びティーカップの船に乗ってお菓子の国をあとにします。そして、場面が変わり、アポテオーズは翌朝のシーン。第一幕同様のクララの家。ドロッセルマイヤーが眠っているクララをクリスマスツリーの前に横たわらせ、舞台右手のドールハウスの中のくるみ割り人形(前夜フリッツが壊して応急処置が施されていたもの)をドロッセルマイヤーの助手が修理。目覚めたクララが直っているくるみ割り人形を見せられ、助手に感謝のハグ、というエンディングでした。





全日程・主要キャスト(新国立劇場サイト)
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_030246.html
ウィル・タケットインラビュー(バレエチャンネル、12月14日の記事)
https://balletchannel.jp/49422
東真帆インタビュー(バレエチャンネル、12月17日の記事)
https://balletchannel.jp/49440
北村正裕ホームページ内の「『くるみ割り人形』の基礎知識」のページ
https://masahirokitamura.art.coocan.jp/nutcracker-g.htm
北村正裕X
https://x.com/masahirokitamra










